金沢のお香

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今回は短期間の入院だったので個室を選んだ。
病床の選択については個々の事情があるので一概には言えないけれど、私にとっては正解だった。入院してはじめてわかったことだけど、入院病棟は意外と「騒々しい」のだ。


私が入院した病院では、基本的に病床のドアは(危機管理の観点から)開放しておくルールになっていたが、なぜか個室についてはドアを閉めてもOKとのことだった。

この「ドアを閉められる」点だけでも個室にしておいてよかったよ!

夜中にトイレに起きたときに大部屋からいびきが聞こえてくることもあったし、認知症とおぼしきお婆さんや情緒不安定(?)な人が消灯後に突然叫びだすことがあったからだ。

しかも「24時間医療スタッフの目が行き届いて安心な環境」なだけに、夜間も何度か点滴のチェックなどで巡視が入ったり、救急車が入構したと思ったら、病室のすぐ外の廊下をスタッフが全力疾走したりキャスター付担架が運び込まれる音で目が覚めるのはいたしかたなく、日中は動物園の猛獣みたいに細切れに眠っているという感覚だった。

 

そんな状況だったので、帰宅してからは連日寝てばかり。
今日は引っ越して以来はじめて黒田香舗の『松風』を焚いてみた。金沢を最後に訪れたのは2013年の1月で購入後すくなくとも7年はたっているはずだけど、変わらず上品で神経を落ち着かせるお香だと思う。「松風」はこの季節にふさわしく、すこしスパイシーで爽やかな香りが気に入っている。

黒田香舗にはお盆の仏前に手向ける用も兼ねて夏場に訪れることが多かったけれど、あそこのお婆さんにつかまったら最後、ウチのお香は和漢方の成分を使っているから体にいいのだ、長岡にも駅前のナントカというお店に漢方薬を卸しているのだとか、貴女はお若いのにお線香をお土産に選ぶとはきちんとされている、仏様も喜ばれますよ等々話がなかなか終わらなかった。
真夏でも品質保持のためにエアコンは設置しておらず(同様の理由で百貨店には卸していないのだそう)、かなりの暑さなのだけど、私は旅先でそういう状況を楽しむことができるので、いっそ太郎冠者にでもなったつもりで扇子をパタパタ扇ぎながらあれこれ出してもらって高級な沈香の香りも聴かせてもらった挙句、結局は分相応に『松風』『遠山』『ことじ 白檀』あたりを買って帰っていた。

 

北陸新幹線バブルで金沢も賑やかになり、金沢21世紀美術館にいたっては年間170万人?入館を売りにして無料開放ゾーンを有料化したりキャパ不足解消のために改装したりしてヘンな方向に行っちゃったので、しばらく足が遠のいている。
黒田香舗のようなお店は観光客の出足にあまり影響を受けないのだろうか。なんだか、漱石の小説に出てくるおしゃべりお婆さんのようにエアコンのない夏もものともせず、ご自慢のお香をどんどん見せてくれるお店のままであってほしいような気がしなくもない。