大川美術館へ

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お盆休み中、大川美術館(桐生市)まで行ってきた。

大川は去年11月の松本竣介展「街歩きの時間」以来だから9か月ぶり。美術館を訪れるのは、1月31日に東京都美術館ハマスホイ展に行って以来だから、実にほぼ7か月ぶりだ。こんなにも長く美術館に足を運べなくなるとは思ってもみなかった。

Go Toトラベルから東京都が除外されたり、帰省による感染拡大が懸念されている折だったが、私たち二人は毎日検温しており、関東圏内の日帰りドライブならリスクは低いだろうと判断した。念のため、事前に現地情報を確認の上で出かけた。

 

いざ関越自動車道に入ると、もう越境ナンバーだらけ。長岡ナンバーはもちろん、姫路、岡山、熊本ナンバーまでいる!みんな公共交通機関を避けて移動しているのだ。

それなりの渋滞で、この日の最高気温は37℃。車内の冷房があまり感じられないくらいの暑さなので、バイクの人たちは大丈夫だろうかと気になる。花園ICを過ぎたら道が空いたので、首都圏ナンバーの車は近場の秩父長瀞に向かったのだろう。

桐生市内に入ってからは勝手知ったる道だけど、初めて訪れた夫は水道山の急勾配に「え~っ嘘でしょー?!」と驚いていた。

 

クラウドファンディングで再現された竣介のアトリエは、ご遺族の厚意で来年3月下旬まで公開が延長されていた。いっそこのまま常設展示にしちゃえばいいのに。

 

大川美術館の顔といえる『街』はいちばん好きな作品だけど、何度も通って観ているうちに最初は気づかなかったディティールを発見することで、もう決して新たに描きこまれることのないはずの絵に、私の記憶の痕跡が刻み込まれていくような気がしている。

たとえば遠景にはカフェかレストランのテラス席でテーブルを囲んで談笑している男女がいるけれど、手前の群像を挟んだ反対側には軍隊が小さく線描だけで描かれている。この絵が描かれたのは大戦の狭間の短い繁栄期。鋭敏な画家の眼が、華やかなモダン都市・東京の陰に戦争の予兆を見逃さなかったことがわかる。

 

コレクション展示は毎回少しずつ変えており、ルドンのエッチング悪の華』シリーズとオノサト・トシノブの作品が数点出ていたのが今回の収穫だろうか。オノサト・トシノブは後日、東京国立近代美術館東京都現代美術館のコレクション展とあわせて網羅的に観ることができたので、美術館におけるコレクション展の重要性を改めて実感した次第。

ルドンはたしか数年前に三菱一号館で展示されていたけれど、日本では目にする機会は少ないから、『悪の華』を観た瞬間につい「おお~ルドン持ってるのか~~」とつぶやいてしまった。

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版画集「『悪の華」No.9 章末の挿絵」(1890)

企画展は桐生出身の新井淳一の個展『テキスタイル・プランナー 新井淳一の仕事』展で、寄託作品約120点以上のさまざまなテキスタイルが展示されていた。

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吹き抜け部分を贅沢に飾った展示

これが意外に面白かった。ジャカード織は工程ごとに分業化されていてコストが嵩むのだけど、新井は職人たちと金に糸目をつけず「遊んだ」という。ウールのジャカード織など舞台装置かと思うようなドラマティックな作品で、イサム・ノグチの彫刻と空間的にマッチしていた。

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ウールジャカード織の展示コーナー。左奥の彫刻はイサム・ノグチ

 テキスタイルというと、私は柚木沙三郎のような型染(平面)作品しか知らなかったけれど、中井淳一の作品は素材の特性を立体的に抽出した作風が特徴で、観ているうちに「繊維は構造物だ」という概念がアップデートされていくようだ。

また、ポリエステルに高温を加えるとシワの形状が残る特性を利用した作品や、アルミ(だったかな?)などの加工を施した作品は彫刻のようで、ここまでくるとほぼ化学。

収蔵庫でどうやって保管しているのだろう?

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箔に見えるけど実はポリエステルの作品

大川美術館では、今年度は広島市現代美術館とコレクションの相互貸出展示をしており、10月以降に広島所蔵の靉光、年明けに丸木俊の作品展を予定しているとのこと。

できれば年内に靉光展も観に行きたい。