十一月 五雲会

能「枕慈童」
シテ:大友 順
ワキ:梅村 昌功
ワキツレ:則久 英志  御厨 誠吾
笛 :藤田 貴寛
小鼓:住駒 充彦
大鼓:飯嶋 六之佐
太鼓:金春 國直
後見:水上 輝和
地頭:宝生 和英

狂言「盆山」
シテ:三宅 近成

能「清経」
シテ:山内 崇生
ツレ:亀井 雄二
ワキ:高橋 正光
笛 :栗林 祐輔
小鼓:森澤 勇司
大鼓:大倉 三忠
後見:近藤 乾之助
地頭:寺井 良雄

能「葛城」
シテ:朝倉 俊樹
ワキ:野口 敦弘
ワキツレ:野口 琢弘  吉田 祐一
間 :三宅 近成
笛 :一噌 幸弘
小鼓:観世 新九郎
大鼓:安福 光雄
太鼓:観世 元伯
後見:三川 泉
地頭:三川 淳雄

狂言「引括」
シテ:三宅 右矩

能「項羽
シテ:辰巳 孝弥
ツレ:金野 泰大
ワキ:舘田 義博
ワキツレ:大日方 寛
間 :高澤 祐介
笛 :小野寺 竜一
小鼓:住駒 俊介
大鼓:大倉 栄太郎
太鼓:梶谷 英樹
後見:亀井 保雄
地頭:小林 与志郎


この時期、能楽界は「能繁期」だそうですが(←漢字まちがえてアップしそう・・・^_^;)
私も今月は繁忙期で、予定をやりくりしてどうやら観に行けました。
いつもなら、四曲目にはスカスカになる前正面も、今回は最後までほとんど脱落者ナシ。
一曲目と四曲目は唐物、という面白い(?)番組でした。

「枕慈童」
白、黄、紫の菊の花を配色よく並べた作り物が目にあざやか。
琳派の中でも特に光琳が好んでモチーフに取り上げた曲だそうです。
この舞台は光琳というより鈴木基一風というか、サックリした印象でした。
(そういえば、大琳派展今日までだったなあ)
シテの型もキレイだったし、地謡もはれやかな雰囲気。囃子方の息もぴったり。
最初の曲にふさわしく爽やかな舞台でしたが、もっと濃くてもよかったかな
・・・というのは、もはや好みの問題ですね。

「清経」
本日、瞬間視聴率(女子の部)がもっとも高かった曲ではないかと(笑)
隣のおねーさん、シテ&ツレの掛け合いで泣いてましたもの。
シテの登場は、「恋之音取」のような、いかにもお出ましという雰囲気がない分
泣き疲れた北の方のうたたねに清経がすーっと入ってきた、という自然な感じでした。
シテは若々しく端正な清経。これは仕舞や地謡座で拝見した時の印象もあるかもしれません。
よくとおる謡や立ち回りがたいへん綺麗な方で、人気のほども納得です。
ツレは天女でよく使われる可愛らしい小面で、謡も悲しみや怒りをまっすぐぶつけてくる感じ。
清経は9月に金春宗家の舞台を観てるんですが、今日のシテとツレは
クールな清経お兄様&ひたむきで可愛い十代の妻、という本当に若いカップル♪でした。
お互いの気持ちを確かめ合う場面のみずみずしさも、若手能ならではのよさでしょう。
お囃子も静かな情緒があってよかったです。森澤さんの澄んだ鼓の音が耳に残りました。

そして、金春流との違いがいたるところに見られたのも面白かったです。
たとえば「船よりかつぱと落汐の、底の水屑と沈み行く」では、
金春流は両手を上げてさっと一回転しながら膝を落とす型で(潮に引き込まれる様子?)
宝生流は膝をまっすぐに落とす型なんですねー。
終盤の立ち回りは、金春流の方がシンプルだったような記憶があります。
宝生流は重厚な芸風」ってフレーズも、他流を観て初めてこういうことか?と納得だし
今日の舞台を観て、金春流の他の舞台も観たいな~なんて思ったりもしました。
来月は観世流の「清経」を観る予定。ふふふ、各派「清経」クルーズを楽しむのだ^ ^

「葛城」
解説によると、主人公・葛城の神様は醜い容姿を恥じて夜しか仕事をしなかったため、
役行者から鬘に縛られる罰を受けたのだそうな。
ブスな上にノルマが達成できずにペナルティがつくなんて・・・ひえええ恐ろしい(by元営業職)
とはいうものの、このシテの一体どこが「醜い」の?
前場、面の上に塗笠を被るなんて、シテにとっては視野がふさがれて大変なはずだけど
笠の下から 増(たぶん)の、すっきり肉が落ちた鼻と口元だけがのぞく顔は、
成熟した女性の色香を感じさせます。
増に雪の積もった塗笠をかぶせちゃうアイディアを思いついた人の美意識はスゴイ!
装束は生成に近い白の水衣に、霙のような質感の薄い香色の摺箔。
縫箔はカーキっぽいブラウンの地に金の流水文様。鬘帯と縫箔はおそろいの色です。
後場の女神は、紅葉と鳳凰(?)を箔押しした白い長絹、朱の勝った鮮やかな緋大口。
普通は後場の装束の方が見栄えするのですが、葛城は前場の方が神秘的でステキでした。
・・・実はシテしか観てません。眠くて。でも、こういう楽しみ方もアリかも。
(追記&訂正:葛城の面は「曲見」または「深井」であろうとのことです。
         無紅(いろなし)を着用する時は、どちらかを使うことが多いとか)

項羽
清経とはひと味違う、情愛の濃さを感じさせる項羽でした。
この曲、私は6月の梅若研能会でも観ているし、
前場の老人が項羽の亡霊だということは、ちゃんとわかってるのだけど
虞美人草を手にするシテの姿には、まるで戦乱で生き残った項羽が年老いて
彼女の思い出の花をいとおしんでいるかのような気がしてしまった。

シテは、虞姫の自殺~茫然自失~死を前にした立ち回りにいたる後場でも
力強さだけでなく一人の男性の弱さ・繊細さもしっかり伝わってきて
四曲目の疲れも忘れさせる、メリハリのある舞台。
ある意味予想通りだった清経に対して、思いがけない発見ができた項羽でした。
シテの辰巳孝弥さんは、地謡でよく拝見する割にツレの役などは観ていなかったので
先入観ゼロだったのがかえってよかったのかもしれません。
この曲のお囃子も全員若手。太鼓ははじめて拝見する方でした。
前場で鼓方三人の足並みがイマイチ揃ってなかったのが気になったけど
戦の場面でのパワーと集中力は申し分なく、三人一斉の「やーーっ!はっ!」という掛け声、
これはきっと打ってる方も(あ、吹く方もね)楽しいんだろうな~と思ったのでした。


今回は意外に進行が早くて、終わったのはまだ5時半前。
帰りに寄ったお店のコニャック入り紅玉タルト&コーヒーのセットがおいしかったです♪
お能を観た後って甘いものが食べたくなるのです・・・(^-^)