やまねこの本棚

『オーケストラ解体新書』(読売日本交響楽団編/中央公論新社/2017年)

屋上庭園で一気読み 本書は読売日本交響楽団(以下、読響)を俎上に、楽団員と事務局、関係各社がどのように演奏会を作り上げていくのかを追ったルポルタージュ。 オケの内側を紹介するというジャンルは、NHK交響楽団正指揮者・岩城宏之(故人)の『オーケス…

暗い月曜日の読書-『犯罪学大図鑑』(三省堂)

今週の前半はちょっとついていた。月曜日は振替休日、火曜日は即位礼正殿の祝日。もっとも、土日がフルタイム休日出勤だったから実際は差引ゼロだけど。図書館で借りてきた本の返却期限が迫っていたこともあり、休日一日目の月曜日はトートバッグに本を詰め…

石内都 写真集『フリーダ 愛と痛み』

横浜で観た「肌理と写真」で受けた衝撃が忘れられず、図書館から石内都の写真集を借りてきた。 メキシコの現代絵画を代表する女性画家フリーダ・カーロ(1907-1954)の遺品を撮影した『フリーダ 愛と痛み』 フリーダの作品や人物に興味がない私でも、フリー…

『ピンフォールドの試練』(イーヴリン・ウォー/白水社Uブックス)

続けて何冊も読むのはキツイけれど、ときどき無性に読みたくなる作家というのがあって、辛辣な風刺とブラックユーモアを身上としたイギリスの小説家イーヴリン・ウォー(1903-1966)なんてその典型かもしれない。 一昨年(2016年)がウォーの没後50年という…

声の肖像 -『ハドリアヌス帝の回想』(ユルスナール/白水社)

毎年暮れに某温泉に出かけるのだけど、必ず本を一冊連れて行くことにしている。 2017年は【温泉⇒テルマエ・ロマエ⇒ハドリアヌス帝】という安直な連想で、マルグリット・ユルスナールの傑作『ハドリアヌス帝の回想』を選択。 昔、須賀敦子『ユルスナールの靴…

「全体主義の起源」(ハンナ・アーレント/みすず書房)

先日読んだ『予期せぬ瞬間』の版元・みすず書房は、学生時代から私の憧れというか知的虚栄心の象徴でした。 ヴィクトール・フランクル『夜と霧』、R・Dレイン『引き裂かれた自己 分裂病と分裂病質の実存的研究』やロラン・バルト『零度のエクリチュール』、…

朝珈琲と遅読

お誕生日プレゼントのコーヒーミル、最近では夫が豆挽き係・私がドリップ係を務めています(笑)。我々は深煎りが好みらしくて、宮越屋珈琲のグァテマラをカリタの三つ穴ドリッパーで淹れるのがもっぱらのお気に入り。 今年は漱石に始まり、割と難易度高めの…

「赤い死の舞踏會」(エドガ・アラン・ポオ/吉田健一訳/若草書房)

見つけた瞬間、小躍りしたくなった古書。 吉田健一の翻訳で、しかもポーの作品集だったらもう買うしかないでしょう。昭和23年6月に若草書房から出版された本です。昭和27年にはエリザベス・ボウエン「日ざかり」の翻訳も出しているし、吉田健一が終戦直後に…

水のやうに澄んだそらを眺め

四季を通じて一番好きな季節といえば、秋。 特に今日のような爽やかな休日は、一日家にいてタオルケットを洗ってベランダに干したり本を読んでいるだけで幸せ。 室生犀星の『永遠にやってこない女性』は、男版『松風』みたいな詩で、こんな静かに充実した秋…

読書日記・藪塚ヘビセンター

もう一か月くらい前のニュースですが、兵庫県で小5男児がヤマガカシに噛まれて一時意識不明の重体になった事件。ヘビを飼おうとしてヤマカガシをつかまえてリュックに入れて持ち帰ったために二度も噛まれたなんて!私としてはこの経験を生かして夏休みの自由…

コンプリート!漱石限定カバー(2016版)

今年2月9日に生誕150年を迎えた夏目漱石(1967-1916)。 昨年2016年は没後100年にあたるので、2年連続の漱石year。 写真は昨年暮れに新潮文庫から出た限定版の特別カバー。 漱石の作品の中でもコンスタントに売れている『坊ちゃん』『草枕』『三四郎』『それ…

「誰がアパレルを殺すのか」(杉原淳一・染原睦美 著/日経BP社)

「誰がアパレルを殺すのか」(杉原淳一・染原睦美 著/日経BP社) 先週あたりから都内ではセールが始まりましたね。 私はルミネ新宿の某セレクトショップでボーダーカットソーの買換え用1枚と、大人系ピンクのバッグを30%OFFで購入。 今年の「夏の陣」はたぶ…

「男と女の台所」(大平一枝/平凡社)

ゴールデンウィークの後半、夫を誘って本屋に行った。 先日、舟越保武の随筆集を買った杉並の個人書店である。 初めて店に足を踏み入れた時、ああ伴侶殿も連れてくればよかった!と思った。 仕事帰りに駅前の大型書店で待ち合わせて外食して、食後にまた書店…

「神西清 作品集」(青猫文庫)-ヴォカリーズを聴きながら

Rachmaninov Vokalise op 34 no 14 Amazon kindleでロシア文学者・神西清(1903-1957)の作品集(翻訳集)を見つけたのでダウンロード。 中高時代は新潮社文庫や旺文社文庫でいわゆる「世界の名作」を読んでいた。あれだけ翻訳ものを読んでいたのは今のとこ…

kindle PaperWhiteで知識の選別

際限なく増殖し続ける本を減らそうと、kindle PaperWhiteを購入してもうすぐ3ヶ月。 「青空文庫」(無料)からダウンロードした「倫敦塔」。 画面はほぼ文庫本サイズで、バックライトがついていて&文字サイズを拡大できるので、通勤電車の中でも目にやさし…

「一汁一菜でよいという提案」/土井善晴

去年の暮頃に話題になっていた本。 某書評サイトで麻木久仁子が「胸がじんとして、涙が出てしまった」と書いていて気になっていた。実は私の本と食の好みは麻木久仁子とかなりかぶっていて、もしかしたらオトモダチになれるんじゃないかという気がしたくらい…

さらば書原杉並本店

結婚以来、久しぶりに阿佐ヶ谷を訪れた。 私見では、中央線文化圏の中でも中野区寄りでサブカル色の強い高円寺と比べると、阿佐ヶ谷はややマイルドな街だ。というか阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪、吉祥寺と一駅ごとに女子度がグラデーションのように次第に高くなっ…

「狂うひと -「死の棘」の妻・島尾ミホ」(梯久美子著・新潮社)

(装丁は新潮文庫「死の棘」と同じく、司修) 「すべての人を不幸にしても、書きたい人だったんですよ。 あの人は、死ぬ順番を間違えた。母より先に死ぬべきじゃなかったんです。そうしたら、なんだって自由に書けたのに」 久しぶりに「どっぷりのめり込む」…

吉田健一の翻訳

数年前から吉田健一の初版本を少しずつ集めているが、去年の夏以降、イギリスの近現代文学を読むようになってから、翻訳家としての吉田健一の著作にも手を出し始めた。3年前に岩波文庫から訳詩集「葡萄酒の海」が復刊した際、昭和39年に垂水書房から500部限…

増殖中

朝、家を出る時間が早いので電車の中で本読んで通勤しています。 大型書店に行けば、1時間くらいあっという間にたってしまい、気がつくとハードカバーを何冊もレジに差し出すのは日常茶飯事。服や靴に関しては、予算とかTPOとかコストパフォーマンスを考…

「生きて愛するために」(辻邦生/中公文庫)

このところ、どこに行くにも辻邦生の文庫本をバッグに持ち歩いている。 通勤の電車の中、仕事帰りのカフェでのひととき、彼の言葉にふれることで、あわただしい日常から解放され、ささやかな幸せを感じられる気がして。 西行の生涯を扱った小説「西行花伝」…

黄色い午後

いまYahooニュースで「東京で『煙霧』が発生して視界不良」と出ていますが、 やまねこの巣穴の窓からも黄土色の曇り空が広がっているのが見えます。 きっと大量の黄砂・・・もちろんPM2.5が渦巻いているんだろうなあ・・・ 土曜日は仕事の後に、「隠れ家そ…

「ヨオロッパの世紀末」(吉田健一/新潮社 ※絶版)

古本屋を見つけると、誘蛾灯に引き寄せられるモスラのように、ついふらふら~っと立ち寄ってしまう。 もちろん神保町にもよく行くけど、靖国通りに面した堂々たる店構えのお店よりは、路地の奥にひっそりと佇む小さな、でも店主のこだわりと目の確かさを感…

「建礼門院右京大夫集」(糸賀きみ江 全訳注/講談社学術文庫)

十二月ついたちごろなりしやらむ、夜に入りて、雨とも雪ともなくうち散りて、むら雲さわがしく、ひとへに曇りはてぬものから、むらむら星うち消えしたり。引き被きふしたる衣を、更けぬるほど、丑二つばかりにやと思ふほどに引き退けて、空を見上げたれば、…

「フランスの伝統色」(城一夫/パイ・インターナショナル)

パナソニック美術館のミュージアムショップで見つけた本。 お能を観るようになってから、装束に使われている伝統色の美しさに惹かれてネットや本で日本の伝統色を調べて観能記事にも書き込んでいますが、フランスにも歴史や美術、食文化から生まれた美しい…

「ベイジン」(真山仁/幻冬舎文庫)

「今起きているのは、私たちの国が抱える慢心の象徴です」 2008年に出版されたこの小説を今読むと、衝撃的な内容に圧倒される以上に 複雑な気持ちになります。 (※以下、若干のネタバレあり) 舞台は2008年の中国。北京オリンピックの開幕に合わせて世界最…

最後の文士

古九谷の見事な大皿に鯛が反り返りそれを浸す酒がこつ酒にしかない光沢を帯びる時、何か海を飲む思いがする。金沢は謡が発達しているそうである。それも解る感じがするので、朱塗りの壁に金屏風を置いてこういうものを飲んでいれば謡の一つも謡いたくなって…

つんどく。。

時間に追われているときほど、本が読みたくなる。 書店で衝動買いしたり、図書館でわざわざ予約までしながら読みきれない本たち。。 アート系・伝統芸能系は、(やまねこ的には)レギュラーメンバーだけど、 こうして写真を撮ると、今は久しぶりにブンガク…

運命の出会いかもしれなかった

ものごころついた頃から重度の活字中毒で、小学校高学年で遠藤周作の「沈黙」、高校生で倉橋由美子の「聖少女」や塩野七生のルネサンスシリーズ、マルグリット・デュラス、日本の古典文学を(ワケわからんまま)読んでいたような<ブンガク少女>だったので…

The Man I Loved

「林芙美子 巴里の恋―巴里の小遣ひ帳・一九三二年の日記・夫への手紙」(中公文庫) 文庫の紹介文によれば、林芙美子の没後50年を機に公開された、1932年の私的な日記なのだそう。 もう何年も前に買った本ですが、「精神と空間」展を機に、久しぶりに書棚か…