「誰がアパレルを殺すのか」(杉原淳一・染原睦美 著/日経BP社)

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 先週あたりから都内ではセールが始まりましたね。
 私はルミネ新宿の某セレクトショップでボーダーカットソーの買換え用1枚と、大人系ピンクのバッグを30%OFFで購入。
今年の「夏の陣」はたぶんこれで終了です。この時期に欲しい服が見つからないのでは、この後のセールを見ても無駄かも。
 この2年間で服を買う頻度も金額も激減しました。家庭を持って安心(?)したこともあるけれど、それとは別に服を買うワクワク感があまり感じられなくなったのが大きい。

「欲しい服が見つからない」
「どのブランドを見ても、同じような服しか売っていない」
「年齢やTPOに応じたデザインや品質の服が欲しいのに、以前に比べて価格の割に生地・縫製の質が落ちている」

 本書は歯止めのかからない業績不振にあえぐアパレル業界、業界を構成するサプライチェーンを隈なく取材した良書です。

 服の作り手(川上)から販売の現場(川下)までの各段階の分業化が進んだ結果、川下で起きていることが、川上でほとんど把握されていないこと。
 70~80年代の日本人デザイナーの活躍や好景気時に新たなフェーズに向けた投資や人材教育がなされなかったこと。
 過去の成功経験にとらわれたまま、安価な大量生産で短期間に次々と商品を投入する「散弾銃商法」が、ネットで情報取集する現在の消費者には通用しなくなったこと。
 長時間労働で待遇が低く、将来のキャリアパスを描けない販売職の「使い捨て」実態が知られるようになり、販売職のモチベーション低下や就職希望者減少につながっていること。
 そして(売り手が出向いていく「営業」とは異なり)、顧客を店舗で「待つ」という受身の商法で、問題意識をなかなか持てなかったこと。

 印象的だったのは、メルカリ利用者の35歳女性のインタビュー。

 正社員として働く市川さんの帰宅時間は午後9時過ぎ。仕事から帰って食事を済ませた後にメルカリで洋服を見る。仕事上がりに百貨店や駅ビルに寄ることはできない。週末は、友人とライブに行ったり、一人で美術館に行ったりしたい。「ライブや美術鑑賞はネットでは代替できない」と考える半面、洋服の購入は「ネットで十分」としている。毎年新しい服を着たいとも思わない。「2年以上前に買った服を着ることに何も抵抗はないですね。むしろ良いものや気に入ったものであれば、長く着たいと思います」。       
(本文より引用。太字はやまねこ)

 この人、今の私とほぼ同じ状況だよ。。消費の中心世代の女性と供給側の都合との、見事なまでのすれ違い。

 読み進めているうちに、こうした業界の構造的な問題は、アパレルに限らず他の不振業種でも共通していることに気がつく。何よりも問題なのは、経営側が過去の成功経験にとらわれたまま「思考停止」している間に、顧客を取り巻く現状からどんどん乖離が進んでいることだ。バーバリーのライセンス契約が引き上げられた三陽商会の事例などはまさに「ゆでガエル」。特定の取引先に依存した一本柱事業のリスクなんて、危機管理の基本中の基本ではないかと外野は思うが、中にいると思考停止しているということは結構ありそうで、決して対岸の火事ではないだろう。

 その一方で、本書ではITなどを武器に、既存の「常識」を覆すような新興企業の取り組みも紹介しています。
・「買う」から「手放す」までを自社で一貫させるZOZOTOWN
・縫製職人と利用者をマッチングさせるサイト。
・普段着をレンタルするサービス「エアークローゼット」。
・国産のものづくりのクオリティを武器に海外展開するジーンズメーカー。
・「来年はゴミになる服を作らない」というポリシーで、2年前の服をアーカイブスとして販売するブランド「ミナペルホネン」。

 「危機こそチャンス」ということか。こういうまとめ方はいかにも日経らしいですね(笑)。著書は二人とも30代半ば前後の記者で、まさに消費者層ど真ん中の年代です。
 kindle版で出勤前にサクッとダウンロードして、通勤電車で片手読みするにはぴったりの内容でした。