マウリッツハイス美術館展「真珠の耳飾りの少女」

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平日の休みを利用して、東京都美術館で開催中の「マウリッツハイス美術館展」へ。
上野駅の公園口を出ると、ちょうど昨日からシンシンの展示(パンダも「展示」っていうんですね~)が再開された旨お知らせの看板が。でも混雑度では間違いなくお隣のこっちでしょう。なにしろあの「真珠の耳飾りの少女」が来ているのだから。
 
84年の来日から実に28年ぶりの「真珠の耳飾りの少女」。美術展サイトを観ると巡回でのべ半年間もの貸し出し期間ですごいな~と思っていたら、ちょうど2012年からマウリッツハイスは改修工事に入ったという絶妙のタイミング。平日でも行列必至といわれても、これはもう観に行くしかない企画でしょう。
 
今回はフェルメールにこれもかと焦点をあてた宣伝だったけど、レンブラント数点をはじめオランダ・フランドル絵画の秀作が揃ったこの展示、みっちり充実した内容でした!美術展の構成は以下の通り。
 
第1章:美術館の歴史
第2章:風景画
第3章:歴史画(物語画)
第4章:肖像画と「トローニー」
第5章:静物
第6章:風俗画
 
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フェルメール「ディアナとニンフたち」
 
17世紀では歴史画(物語画)の評価が最も高く、フェルメールもそのキャリアの初期は歴史画を手がけていたという。この作品、歴史画コーナーでわりとあっさり紹介されていたので、うっかりするとフェルメールと気づかずスルーしちゃいそう(汗)。
月と狩りの処女神ディアナ(中央)と取り巻きのニンフたちの構図というか衣装の色の配置が絶妙で、フェルメールの色彩に対するバランス感覚の良さを実感させる。
 
 
 
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この絵一点のために、広い展示室まるまる一部屋使って行列用のロープがくねくねと蛇腹状に張られていたほどの混雑(←くどいようですが、今日は平日です)。
待つこと約10分、ようやく辿り着けた彼女の前には立ち止まってはいられず、必死で目を凝らしてそばを離れた後、二列目、人の肩越しに乗り出すようにしての鑑賞。。
宣伝が大々的だったせいか、実物が思っていたより小さい画なのに驚く。後でふれるレンブラントの作品もそうだけど、この作品は「トローニー」(頭部の習作を意味宇するオランダ語)と呼ばれるジャンルで、肖像画より序列は下だという。
 
背後の深い闇と少女の上半身にあたる光のコントラストが強くて、少女の肌自体がその若さで内側から発光しているような、みずみずしくなめらかな質感が印象的で、彼女が思っていたより若いというかあどけないのが意外。もしかしたら13,4歳くらい?少し斜視気味なまなざし、もの言いたげに軽く開かれた口紅を差していないくちびる、ウルトラマリンのターバンで白さがいっそう強調されるなめらかな肌。成熟への途上にさしかかった少女の透明感とあやうさが、まさに「オランダのモナリザ」と呼びたいほどに謎めいて美しかった。
 
 
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レンブラント「羽飾りのある帽子をかぶる男のトローニー」
 
駝鳥の羽飾りのついた華麗な帽子、角をかたどった耳飾り、甲冑の首当てを身に着けた男の頭部習作。この奇抜なファッションは17世紀当時のものではなく、画家の想像の産物だという。トローニーは必ずしも実在のモデルがいたわけではなく、いたとしてもその性格を描写するのが目的だったというから、「真珠の耳飾りの少女」ももしかしたらフェルメールが想像で作り上げた少女だったのかも…。
 
 
 
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ヤン・ブリューゲル(父)「万歴染付の花瓶に生けた花」
 
海外貿易で経済・文化ともにその黄金期を迎えていた17世紀オランダの富を象徴する静物画。トルコからもたらされたチューリップは当時は大変高価で、特にこの絵に描かれた斑入りのチューリップは球根一粒で屋敷が建つほどだったそう!!このフラワーアレンジメントは時価いくらやねん!(←なぜか関西弁)
一方で、当時のフランドル派静物画は寓意画としての側面も持っていて、咲き誇る花も、花に止まった蝶やテントウムシなどの小さな生命も、生きとし生けるもののはかなさと無常を象徴しているのだという。「無常」って日本の専売特許じゃない、普遍的な観念なのね。当たり前だと思うけど。。
 
 
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ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」
 
この時代のオランダの風俗画も寓意的というか意味深なものが多いのだけど、この展示で一番アブナイ作品がこれ。
見るからにジューシーな牡蠣と一つまみの塩を手にした娘が、あなたもおひとつどうぞと差し出しているかのようなショット――牡蠣は昔も今も媚薬とされ、塩もその効果を高めるといわれているのだそう。しかも、娘の背後のカーテンからはベッドがのぞいているという、男性ならゾクゾクしちゃいそうなきわどさです。
たしかに牡蠣は「海のミルク」と呼ばれるくらい栄養価が高いし、やまねこも生ガキ大好きだけど(殻に残った汁も美味)、そ、そんな意味があったとわ。。
 
 
 
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ヤン・ステーン「親に倣って子も歌う」
 
このヤン・ステーンって人、なかなか風刺の効いた作品を得意としたみたい。
タイトルは「あの親にしてこの子あり」ということわざをもじったもの。(関係ないけど、やまねこのパソコン、「うたう」と打つと「謡う」に変換されちゃうよ。。)
画面中央の子どもの洗礼式のために集まった大人たちのダメっぷり加減が半端じゃなくて、子どもの将来が思いやられそう・・・というか、すでに画面右側ではニヤけた親父が「ほらお前も吸ってみっか~~?」と息子にタバコの吸い方を教えてるし!
このダメ親父こそヤン・ステーテン自身がモデルだそうで、画家本人が悪い親を演じている自己嘲笑(?)に、ぐっと引きつけられる気がする。
この作品が展示のトリになっているので、かなりインパクトが強かったです。
 
そんなわけで、展示数がたったの48点とは思えないほどの充実の内容でした。
すごい、すごすぎるよマウリッツハイス。
琳派展なんか観ていても感じることだけど、すぐれた芸術が集中的に生まれる背景にはやはり経済的な豊かさが基盤にあるんだな~とあらためて実感しつつ、炎暑の上野の森を後にしたのでした。