金沢の迷宮 - やまねこ座の庭

　前の記事で金沢は守りの固い町づくりをしていると書きましたが、それをもっとも強く感じさせるのが東山・卯辰山エリア。金沢でも人気の観光スポット・東茶屋街から路地を一本入ると、急な坂や入り組んだ路地がつらなっています。

　写真は主計茶屋街にある有名な「暗がり坂」。茶屋の細い路地の奥にあるこの坂を上がっていくと神社の境内に出るのですが、この坂は茶屋街華やかなりし頃に旦那衆が神社の境内を抜けてお忍びで通うのにつかわれたとか。

　金沢二日目はお天気に恵まれたこともあって、この機会に卯辰山寺院群に行ってみようかと思ったのですが・・・観光ガイドにも詳しい地図が載っていないので、東茶屋街の観光ボランティアのおじさんたちに聞いてみたところ、

「えっ、卯辰山に行きたいの？？」

と困惑の様子。むむ、そんなにマニアックなエリアだったかしら。。それでも、詰所の奥に走って寺院群のガイドを探してきて、親切にも「その靴じゃ全部回るのは無理だから・・・途中で帰ってきたほうがいいですよ」とアドバイスしてくれました。

出がけに心配そうな顔で送り出された　やまねこ、石浦神社の破魔矢がつきだした紙袋を持ってましたが、よほど行き暮れたヒトに見えたのかしら・・・。

　茶屋街に隣接した宇多須神社の脇を抜ける急な坂道。

このへんは角を一本曲がっただけで、艶やかな茶屋街から古い住宅地へとがらりと風景が変わります。そこかしこに小さなお寺が。

　この坂を上りきった先に宝泉寺があるのですが、上に行くほど積雪がすごくて、お寺の石段は滑り止めの藁苞が敷いてありました。

　宝泉寺　石段の横には古い石の仏さまたちが。

　人っ子一人いない境内。

石段を上りきってこの光景を見た瞬間、つい「あなたの知らない世界」（←古い！）を思い出してしまいました。日が傾き始めていただけにちょっと怖かったです。。

　前の写真からアングルをちょっとずらすと、ご覧のように立派なお寺です。

このお寺、能楽堂でときどきお見かけするドナルド・キーン氏が「落陽の光景が金沢一の寺」と評していることもあって、一度は行ってみたかったのです。

　ドナルド・キーン氏も見たであろう、宝泉寺の展望所。

雪をかぶった町家がずーっと連なる東山のまち、浅野川を挟んだ対岸にはマンションや高層ビルが古い街並みを取り囲むようにそびえています。

日没の光が、能登瓦を葺いた町家の屋根をあかがね色に染める光景はさぞ美しいでしょうけど、冬の底にしんしんと沈み込んでいくような雪の街並もいいですよ。

　宝泉寺を出て、あの急な坂をやっとの思いで下りてきた頃には日没も迫ってきたのでお寺探索はあきらめて、卯辰山の住宅地を散策。

　この地区は写真のように、曲がりくねっていて見通しの悪い路地が続いています。東京都では世田谷区が（かつての農道をそのまま車道に転用しているため）タクシーの運転手泣かせとして有名ですが、卯辰山エリアも相当なものです。

　金沢は卯辰山・小立野台・寺町台の三つの台地に寺院群を配しており、地形を生かした巧みな城下町づくりをしていたのが、この寺院群の配置でもわかります。

３寺院群の配置の大きな特徴は、城下への入口の要所である浅野川口（卯辰山山麓寺院群）と犀川口（寺町寺院群）に加えて、金沢城の背後に広がる小立野台（小立野寺院群）に一向宗（浄土真宗）以外の寺院を集積させていることである。
　このことから、城下の弱点となる部分を補強し、かつ当時勢力があった一向宗寺院を城下に分散配置することで、再び一向一揆が起きないよう配慮したことがうかがわれる。城下の防御が、３寺院群形成の主目的であったと考えられている。

※出典：「石川県に世界遺産を」推進会議HPより「卯辰山山麓寺院群」

　2010年夏に訪れた富山県高岡市の勝興寺は、北陸における一向宗の一大拠点であった勝興寺は前田家の男子の出家先であり、何代目かのお殿様はこの寺から還俗した人だと解説で読んだ記憶が・・・。前田家は北陸一帯の治政において、一向宗とつかず離れずの関係を保ちつつ、かなり神経を使っていたのですね。ちなみに、やまねこのお家も父方・母方ともに浄土真宗です。