秋の夜の香り-「華氏451度」-

気温が上がった一昨日あたりから、
都内でも金木犀の甘い香りが漂うようになりました。
この香りを嗅ぐと、「ああ、秋本番だな~」と実感します。

ご近所さんにはガーデニングに凝る家庭が多いので、
早春は沈丁花、夏は馬酔木(あしび)に梔子(くちなし)、
秋は金木犀の香りが楽しめます。
なんだか甘い香りばっかりですけど。

花の咲く季節は、甘く濃厚な香りを楽しむように、
いつもよりのんびり歩いて帰ります。
夜の方が、花の香りも空気の匂いも濃く感じられるので。
科学的に考えれば、気温の高い日中の方が芳香が強いはずなのに、
夜になると、香りそのものが濃密になるのはなぜだろう。

この季節になると、読み返す小説が「華氏451度」(ブラッドベリ)。
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華氏451度、それは本(紙)に火がつき燃え上がる温度。
本を読むこと、所有することを禁じられた世界で
本を焼き捨てる焚書官の男が主人公。
彼がある夜、一人の少女と出会うことによって仕事に疑問を感じ始め、
自分の所属する社会から少しずつ逸脱し始める・・・というありがちな話だけど、
そこはブラッドベリ、随所に挿入される自然の描写がみずみずしい。
特に、主人公と少女が出会うところは美しい詩のような名場面。
ここで描かれる秋の夜の描写がとても好きで、
何度でも繰り返し読んでしまいます。

トリュフォーの映画も映像が美しく、
(雪の中、本を暗唱しながら歩くラストシーンが印象的)
ジュリー・クリスティの妖精のような魅力とファッションが素敵で、
これはこれでいい作品だと思うのですが、私は原作の方が好き。
読んでいて、なんだか懐かしい気分になれる小説です。