ちょっと怖い話Ⅰ-「生成」-

一昨日、能楽堂に入る前に
待ち合わせ場所の「ニューヨーク・カフェ」でYから聞いた怖い話。

とある地方の、憑き物筋のお家に取材に行った人が、
帰京後にお家の人の話を録音したテープを再生しようとしたら、
人の声は入っていなくて、なにかうなり声が入っていたとのこと。
その声というのが、
「鵺」の亡霊出現のときの謡と、抑揚や節回しが同じだった・・・というお話。

新耳袋」あたりで読んだような気もする話ですが、
これから丑の刻参りの曲を観ようという時だけに、ちょっと怖かったです。
「鵺」はまだ観ていないけれど、「阿漕」後シテ登場の場面を思い出すと・・・。

お能の方のインタビューやブログを読む限りでは、
いわゆるオカルト的な話になると
拒絶反応を示される方が多いみたいですね。
観世清和さんも「無我の境地ってことはありません。我がなきゃできません」
とハッキリおっしゃっていたし。そりゃそうでしょう。
精進して舞台に臨むのに、「業平が乗り移ったようだ」なんて言われたらヤだな~。

私自身は、そういう話は話としては大好き!で、結構楽しむほうだけど、
信じるかっていうと別かなぁ。見たことないし(鈍いだけかもしれないけど)。
むしろ生きている人間の方が怖いと思うことがあります。

前置きが長くなってしまいましたが、
「鉄輪」をテーマにした、ちょっと怖い漫画の話。

近藤ようこ「生成」(作品集「春来る鬼」収録。青林工藝社刊)
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舞台を現代におき、新妻からみた「鉄輪」の物語です。

若い芸術家の夫と、夫とは異業種の妻。そして夫のパトロンでもある年上の愛人。

新妻に「あなたたちのことは何でも知っている」という態度を取る愛人。
「彼女の若さと美貌が喧伝されている程ではないことは、近くで見ればわかった」
と残酷な視線を投げる妻。

能をたしなむ愛人は、自分のお稽古の発表会に妻を招く。
「これはとってもわかりやすい話なのよ。女がね 丑の刻参りをする話。
ね 面白そうでしょ?」
そして妻が見たものは・・・。

ラストの2ページ、背筋に氷を入れられたような怖さが堪能できます。

「生成」は、近藤ようこの作風が確立されつつある時期の作品ですが、
表題の「春来る鬼」「水の女」と並んで、
都会にひとり暮らす女性の孤独と残酷さを描いた秀作。
変わらない日々の合間にすっと訪れる「闇」・・・おすすめです。