「風の琴」(辻邦生・文春文庫)

いつも思うことですが、いい本に限ってどうしてすぐ絶版になるんでしょう。
文庫で増刷されなかった本は、早晩「消えて」しまうので、
これ!と思った本が文庫化されたら 即その場で買うしかありません。
数年前、堀田善衛の「海鳴りの底から」が都内の紀伊国屋では在庫切れで、
たまたま出張予定先の博多の店舗にだけあるというので
店頭取り置きサービスを利用して、ぎりぎりセーフでゲットしたことがあります。
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☆「風の琴」(辻邦生/文春文庫)

いまは絶版の「名文庫本」。
24枚の絵から 辻邦生がイマジネーションをひろげて
短編を書いています。
絵と短編の内容が必ずしもリンクしているわけではないのだけど
辻さんの、人間に対する洞察力の深さと想像力の豊かさを
心ゆくまで味わうことができます。
文章がこれまた大変洗練されていて、「美しい日本語」とは
辻さんのことばのことじゃないかと思うくらいです。
出版社も企業である以上、仕方ないかもしれないけれど
この本が絶版になるとは・・・(T T)
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第七の物語  謀み (たくらみ)
<「婦人の肖像」ポライウォーロ>

乗馬の得意な美女をめぐる、二人の男のはかりごと。
賭けに敗れた男は、彼女を心底愛していながら
虚栄心が強いだけのライバルに唯一のチャンスを譲ってしまう。
やがて彼女がその謀みを知ったとき・・・。
サスペンスタッチな愛の悲劇。

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第十の物語  狂い
<「美しきフェロニエール」レオナルド・ダ・ヴィンチ

霧の朝、謎の美女に運命的な恋をした青年は
彼女を追って霧深き森の奥にある古城へ向かう。
恋に狂った青年の運命は・・・
結末のどんでん返しにあっと息を呑む短編。
ちなみに絵のモデルは、ミラノ大公「イル・モーロ」の愛人チェチリア。

本作は「十二の肖像画による十二の物語」と「十二の風景画への十二の旅」からなっているんですが、私は肖像画シリーズの方が楽しめました。
絵の中の人物から、驕りや誇り高さなどの内面に踏み込んだ洞察力に
「うーん、こんな創作ができるのか」と感心させられます。

この連休を利用して「西行花伝」を読み始めました。
激動の時代に生きた若き西行の、花と恋と生の長編絵巻。
こちらのレビューは後日あらためて。