昭和四年の「宝生」

約一ヶ月あまりにわたって抱え込んでいた仕事も昨日で一段落。
本日は振替休日をいただいて、一日引きこもってました。暑かった~。

さて、部屋を整理していたら「宝生」のバックナンバー(07年10月号)が出てきました。
私はこのテのギョーカイ誌(?)はほとんど買わないのですが、
これはもの珍しさで衝動買いしたもの。
能楽談儀」のgenさんの初シテ「小袖曽我」で、金沢勢が写ってる写真もありますね。
住駒さんが若い・・・(←あ、今でもお若いですけど^_^;)
肝心の中身は~~あまり読んでませんっ。公演情報や業界ニュースくらい。

この中に、「戦前の『宝生』より(十三)―稽古する人」という記事があって、
筆者は桐谷正治という人なんだけど、西洋楽器や語学のレッスンにも通じる内容で、
これが意外に(?)面白かったです。
素人の謡のお稽古で、稽古自体はマジメにやってもおさらいがなかなかできないまま、
謡の番数だけ上げていくやり方では、一回ごとの稽古が身につかないから
健実な謡が身につかない――では健実な謡を身につけるにはどうしたらいいかというもの。

「それですから私は、一般にお勧めしたい事は、稽古をした日に、習った所だけを一回でも二回でも謡ってみる。若し謡うことが出来ない場合は、謡本に目を通して、其の日習ったホヤホヤの所を不審があるかないかを調べて置き、不審の点があれば必ず次の稽古の時に師匠に糺すという風にするのがよいと思います。こうして稽古を終え、稽古を続けて行けば、終わった曲には少しの不審もない訳ですから、それを謡うのに自信が持てます。謡うのに自信があればそれでよいのです。自信がなくては謡うのに心細いことで、上手下手は別としてもそういう状態では正しい謡をうたうことは出来ません。謡は正しい、間違わない所に価値があります、出鱈目な謡をうたうことは恥さらしで慎まねばならぬ事です。」

謡をフルート(あくまで一例。どの楽器でも同様)、謡本を楽譜と置き換えれば、
「忙しい人のためのレッスンの心得」かなんかで、今でも充分通用しそうです。
ただし、特に語学や歌舞音曲系のお稽古は おさらいの量で決定的な差がつくから
譜面をチェックして先生に聞いたくらいで自信がつくというのは
そもそも基礎がしっかりしている人の、それも一時的な手段じゃないかとは思いますが・・・。
レッスンの後すぐのおさらい自体は、フルートでも中国語でも勧められたし、
確かに効率的なやり方ではありますね。

驚いたのは、この記事が書かれたのが「昭和四年六月号」ということ。
原文は旧仮名遣いですが、非常に論理的で、社外の人間にもわかりやすい文章だし
マチュアのお稽古事情が80年近くたった現在でも、ジャンルが違っても、
謡のお稽古とほとんど変わらないのにもミョーに感心しました。
「おさらいをなさるのは、私の想像するところ十人の中で一人か二人」・・・どきっ!!
私は「十人の中で八人か九人」のクチでしたね~~f^_^;)
能を習っているブロガーさんは、マジメにおさらいされている方ばかりですが。
桐谷正治センセイは、よっぽど厳しい方だったんでしょうか?
いえいえ、「十人中一人二人」の方だからこそ、
ブログでお稽古の振り返りをされてるのかもしれないですね!

それにしても、昭和四年当時の「宝生」ってどんな誌面だったのか
ちょっと興味ありますね。
私の知らない能楽師だらけだろうけど・・・。