宝生夜能

☆宝生夜能
 能「氷室」
  シテ:登坂武雄
  天女:富山淳司
  ツレ:高橋憲正
  ワキ:高井松男/梅村昌功・御厨誠吾
  間 :吉住講
  笛 :寺井宏明 /小鼓:鳥山直也 /大鼓:原岡一之 /太鼓:小寺佐七
  後見:中村孝太郎 金井雄資
  地頭:寺井良雄

狂言「蟹山伏」
  シテ:野村万蔵

 能「半蔀」
  シテ:渡邊茂人
  ワキ:野口敦弘
  間 :小笠原匡
  笛 :藤田朝太郎 /小鼓:鵜澤洋太郎 /大鼓:上條芳暉
  後見:渡邊荀之助 佐野由於
  地頭:近藤乾之助


相変わらずはっきりしない天気が続いていますが、
この夏見納めの能は 本来の季節にふさわしい番組でした。
何十年か後には、日本の四季はこうした伝統芸能の中にしか存在しなくなるかもしれませんね。

「氷室」
エアコンも製氷機もない時代、氷室の貴重な氷をいただく喜び、
夏まで氷を守ってくれた神様への感謝からつくられた曲なのでしょうか。
この氷室守は、かなりマイペースな神様らしくて
前場でツレやワキがドキドキしているような気配が伝わってきました。
私は謡のことはよくわからないけれど、アンサンブルとしてはどうだったのでしょうか。
曲とは関係ありませんが、冒頭で「亀山の院の御世」という言葉が出てきて
とはずがたり」リアルタイムの時代の話だったのかと、妙なところで感心しました。

「蟹山伏」
話のパターンとしては、「梟山伏」に似てますね。
カニ退治に「カラスの印」なんか効くワケないでしょ、って突っ込みどころ満載。
強力扇丞が、万蔵山伏から「お前、女が訪ねてきてただろ」と訊かれて
「あ、あれは伯母です」「そうか、イイ女だったな。今度紹介しろ」
というやり取りがあるのですが、大江山にしろ道成寺にしろ、
狂言の強力って押さえるべきポイントは押さえてますね(笑)痛い目にも遭うけど。
扇丞さんの強力、したたかだけどオッチョコチョイな雰囲気が出てて結構好きです。

「半蔀
渡邊茂人さんは、金沢の舞台でもお姿は拝見していたのですが、
「乱」のしなやかな猩々の印象が強くて、この「半蔀」は楽しみにしていました。
前場でシテが橋掛かりから舞台に入ってきた瞬間、清楚な美しさに目が釘付けになりました。
夕顔という女性のイメージとしては、清潔な感じが強いようでしたが
緑がかったアクアブルーの地に金箔を施した長絹姿は、若さが匂い立つような爽やかさ。
恋の始まりの喜びを謳い上げる この曲の雰囲気がよく出ていたと思います。
半蔀を出てからは緩やかな動きなのに、体のキレのよさを感じさせる舞さばきで
アスリートに通じる美しさを見た気がしました。お声もきれいだし♪

この曲は地謡も気持ちよさそうです。(詞章を読んでおいてよかった!)
能を観てない方のために書いておきますと、この曲は
終盤の序の舞で、源氏が夕顔に贈った歌をシテと地謡が掛け合いで謡うのですが、
これ↓がまた、すっごい殺し文句なのです。

折りてこそ それかとも見めたそかれに ほのぼの見えし花の夕顔 花の夕顔 花の夕顔
(折り取ってもっとよく見てみたいものです
  黄昏時の薄明かりで ぼんやりと見た美しい夕顔の花を)

「ほのぼの見えし~」で、明るくうっとりと謡い上げることで
想いがきわまって、ついに「花の夕顔」しか口にできなくなる感じがたまりません~。
ここから「木綿附の鳥の音、鐘もしきりに、告げ渡る東雲、あさまにもなりぬべし」と
高めのトーンでやわらかく引っ張っる地謡もよかったし、お囃子もゆったり聴かせるし、
音楽としても楽しめる舞台でした。