十月 月並能

能「松虫」
 シテ   水上 輝和
 ツレ   大友 順  渡邊 茂人  和久 荘太郎
 ワキ   殿田 謙吉
 間    竹山 悠樹
 笛    藤田 朝太郎 
 小鼓  幸 正昭 
 大鼓  佃 良勝
 地頭  高橋 章
 後見  本間 秀孝

狂言「鏡男」
 シテ  野村 万之助

能「井筒」
 シテ  三川 泉
 ワキ  宝生 閑
 間   深田 博治
 笛   中谷 明 
 小鼓  幸 清次郎 
 大鼓  安福 建雄
 地頭  今井 泰男
 後見  三川 淳雄

能「鉄輪」
 シテ     渡邊 荀之助
 ワキ     高井 松男
 ワキツレ  側久 英志
 間      野村 万作
 笛      寺井 久八郎 
 小鼓    住駒 匡彦  
 大鼓    安福 光雄 
 太鼓    徳田 宗久
 地頭    近藤 乾之助
 後見    宝生 和英


番組表に、佐野萌さん療養中による地謡の出演者変更のお知らせが入っていました。
たしか来月 金沢で「半蔀」を舞われるご予定だったかと思いますが・・・。

水道橋には結構足を運んでいる割に、月並を観たのは2月以来じゃないでしょうか。
今日はかなーり濃いプログラムで、テーマ(←私が勝手につけた)は「ザ・情念」。
特に地謡が濃密かつ内に引き込むような謡い方をしていて、いつもこんな濃厚だったっけ?
と思うほどで、おなかいっぱいです。

「松虫」
衆道といい、虫の音を追って野原で死んじゃう青年といい、なんか文学的ですね。
ワキがオペラかと思うような謡いっぷりで、シテをおさえてしまわないか気になりましたが
前場の掛け合い、きれいにユニゾっていて聴かせてくれました。
でも、なにせ「松虫」というビミョーなお話ゆえ、私にはついていけない世界(^_^;A
後場はちょっとトリップしておりました・・・。

「井筒」
この曲って、シテによってイメージがガラッと変わりますね。
四十代後半の小早川修さんがお勤めになった時は、まさに恋に生きる女だったけれど、
三川さんには、ハーンの「伊藤則資の話」に出てくる平重衝の姫を連想してしまいました。
一人の男性にただ一度出逢ったばかりに、生まれ変わることもできず、
出逢った頃の姿のまま、人の世の幾代もひたすら愛する人を待ち続けた姫君のお話。
何百年という時の堆積を受け止める、閑さんの「更け行くや 在原寺の夜の月」も
実にしっとりとした艶があって聞き惚れました。

シテは、ご高齢ゆえ動きも声量もかなり限られていたご様子でしたが
気の遠くなるような時間の果てに、彼女の姿も想いも、井戸を離れることができないまま
周りの草木に同化してしまった・・・という印象を受けました。
特に後場で舞いながら少しずつ井筒に近づきほんの一瞬、井筒に向ける強いまなざしとか、
「見ればなつかしや」で、意外な勢いで(ススキががさがさがさっ!と鳴るくらい)
井戸を覗き込み、放心したようにゆっくり離れる・・・という感情の発露が、らしくてよかったです。
面のわずかな動きだけで、彼女の感情や内面を伝えられるというのはすごいですね。
地謡が風に揺れるススキみたいに、たゆたうようにして一瞬動きを止める、ような
なんだか独特というか濃密な謡い方をしていたのも印象的でした。


「鉄輪」
荀之助さんの、それも鉄輪だというので楽しみにしてた舞台でした。
万作さんの神官は冒頭から「恐ろしや恐ろしや」と雰囲気を盛り上げるし、
お囃子も「ザ・陰陽師ワールド」という感じで(特に晴明が祈祷する場面)よかったです。
そして荀之助さんはやはり迫力満点でした。
「言ふより早く色変わり」で体をひきつらせる場面なんか特に。
でも、いかにもな雰囲気すぎたというか、後場もフツーに祈祷で退散しました、という感じで、
鉄輪の女の内面にもっと踏み込んでほしかったなー。ん~惜しい!と思ったのでした。
迫力があっただけに、もっとがつーん!とやってほしかったなあ・・・なんて。
ところで、この鬼女の縫箔は 黒地に金糸で木の葉のような幾何学模様をほどこした上に
大輪の花を散らしたモダンな感じのもので、丸紋尽くしじゃなかったので驚きました。
道成寺は丸紋尽くしだった記憶があるのですが、鬼女でもいろんな意匠があるんでしょうか。

さて、もう来月どころか来年の公演予定も出ていたので、しっかりチェックです。
催し物のチラシもたっくさんゲット。まあほとんど観に行けないけど・・・。
でも、「即・確定」もあったりするのです。ふふふ♪