白洲正子と品格本

自宅近くの書店は、いわゆる「町の本屋さん」なのですが
店頭に定期的に岩波書店平凡社の単行本が「フェア」と称して並びます。
(新書じゃないですよ、単行本ですよ、単行本!)
どうやら出版社の営業が期間を定めて置いていくようですが、
店主自身が本を読む人じゃないと並ばないような、クオリティの高い本ばかり。
メガ書店やネット書店優勢の昨今、こうしたお店こそ頑張ってほしいと思います。

さて、メガ書店同様、この書店でも「白洲正子本」が売れているらしく、
平積みコーナーでちょっとしたスペースを割いています。
で、毎回その隣に並ぶのがいわゆる「品格本」。
女性の品格だの親の品格だの品格ある暮らしだの、品格のコンビニ状態です。
どうやら、品格本プラス「ほんものを知る人・白洲正子」に手を伸ばせということらしい。
興味深いのは、こうした平積みコーナーに並ぶのは
白洲正子自身の著作ではなく、白洲正子ムック本ともいうべき関連本、という点。
ご本尊の「お能・老木の花」「両性具有の美」「名人は危うきに遊ぶ」なんかは
奥の文庫本コーナー(の棚)に並んでいます。

ちょうど今「花にもの思う春-白洲正子新古今集-」を読んでいるのですが、
文体自体は率直で平明にもかかわらず、思いのほか手が掛かりそうな内容です。
というのは、白洲正子新古今集だけでなく先行する万葉集古今集
かなりのレベルで血肉にした上で、自分のことばで書いているのですが、
読み手にも最低限の日本史・国文学史の知識を要求しているからです。
この人は、教養の啓蒙なんて本当はどうでもいいのではないか、とさえ思えるほど。
そんなわけで、自分の知識や興味のおよぶジャンルの著作は面白いのだけど
骨董だの日本のたくみあたりになると もうお手上げで、
大きくなったらいらっしゃい、と言われてる気にさせられる作家です。

私は別に白洲正子ガイド本(またはムック本)を否定しているわけではないし、
あれだけ広いフィールドワークを持つ作家を紹介するには、いいツールだと思います。
ただ、ムック本と所詮マナー本の域を出ない品格本をメインに据えて
「ほんもの」「品格」と大書したPOPを立てるのはねえ・・・・・・。

どうせなら「ほんもの」の白洲正子作品をびっしり並べればいいのに。