「花のレクイエム」(辻邦生・山本容子著/新潮社)

ブログ本体&アバターの背景を「薔薇」に模様替えしてみました。
このところデッドヒート気味の反動かもしれません(泣)
今のお仕事、春秋は特に忙しいんです。

今日は雨降りだったので、お部屋とクローゼットの整理をしてリフレッシュ。
きれいに片づいたお部屋で 音楽をかけながらのんびり本を読んで過ごしました。

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こないだ、五雲会に行ったときに神保町で見つけた本。
新潮文庫版でも持っているのですが、装丁の美しいオリジナル版に惹かれて購入。
12ヶ月の「花」をテーマに、辻邦生の文章と山本容子の銅版画が織りなす短編集です。

辻邦生の日本語の美しさは今までにも書いてきたけれど、
山本容子の銅版画もとても好きで、「女」「プラハ旅日記」あたりは
色づかいといいタッチといい、何度見てもいいなあと思います。
「花のレクイエム」では、「山茶花」「ライラック」「猿猟茨」が好みです。

12話のどれもすこし悲しくて それでいて心にしん、とくる短編で
私が特に好きなのは「一月 山茶花」「二月 アネモネ」。

山茶花」は地方の古い街を舞台にした、少年の初恋の物語で
門前の山茶花を手折ってくれた年上の女性との出会いと死別が描かれます。
ただ一度言葉を交わしたきりの女性のはかない思い出と、彼女の家の山茶花が重ね合わされて
・・・あれ?どこかできいた話のような・・・(笑)
アネモネ」は、戦争で婚約者を亡くして生涯独身を通した女性の物語ですが、
つつましい彼女に秘められた烈しい情念が「早春の雪のなかに一輪一輪投げられたアネモネ
に象徴されていて、とても鮮烈なイメージを呼び起こす小編です。

新潮文庫のあとがきにも書かれていますが
おもしろいのは、この短編集はテーマの花を決めただけで打ち合わせなしに
作家と銅版画家はそれぞれイメージを織り上げて創作したため
山茶花」で辻邦生が「真紅の山茶花」をイメージして書いたのに対し、
山本容子は凛とした「白い山茶花」を描いた・・・というエピソード。
水村美苗との書簡集「手紙、栞をそえて」もそうだけど、
辻邦生は創作前に「共演者」を顔を合わせることなく、相手に対する想像力だけで
執筆することにこだわったようです。
(辻の療養先の軽井沢を水村美苗が訪問したものの、いざ対面を前にしてあえて面会せず、
そのまま辻邦生が逝去したため遂に一度も会わなかったのだそう)
「言葉の箱」で、辻邦生は「想像力と言葉が、創造の源」という意味のことを書いているけど
私は、辻邦生はある種の<恋愛>に近い状態に身をおいて創造していたのでは
・・・という気がします。
そして、山本容子水村美苗も、彼の「想像の磁力」がわかる女性だからこそ、
そういう創作が可能だったのではないかと思うのです。

(もっとも、凡庸な一般人がマネしようとしてできることではないと思うけど)

新潮文庫版も、オリジナルの意匠を生かしたつくりになっているので
手にとって、読んで、愉しめる本だと思います。
今日はこの本とエンヤに癒された私でした。