金沢十二月定例能

☆金沢十二月定例能(12月7日 石川県立能楽堂
素謡「絵馬」
 松本蓉子 有松美貴子 室賀政子 (佐野社中)

能「巻絹」
 シテ:渡邊茂人
 ツレ:酒井章
 ワキ:北島公之
 間 :小崎正信
 笛 :高島敏彦 
 小鼓:多田順子
 大鼓:中村宗雄
 太鼓:徳田宗久
 後見:渡邊容之助
 地頭:島村明宏

仕舞「車僧」  
 高橋右任

狂言佐渡狐」
 シテ:野村扇丞

能「竹雪」
 シテ:佐野由於
 ツレ:高橋憲正
 子方:山田尚
 ワキ:殿田謙吉
 間 :野村祐丞  荒井亮吉
 笛 :片岡憲太郎
 小鼓:住駒俊介
 大鼓:飯嶋六之佐
 後見:藪俊彦
 地頭:大坪喜美雄


前日とは変わって、日曜は小春日和の快晴。
せっかくお隣の県まで来ながら、これを見逃すような私ではなく(笑)、
早めに能楽堂入りして正解でした。この日はほぼ満席。
番組も新潟に縁のある「佐渡狐」「竹雪」が重なるという、(私には)面白いもの。


「巻絹」
巻絹は今月もう一度観る予定なので、忘れないうちに走り書き。

前半のスピーディーな展開に対して、後半で舞が延々と続くのが印象的な曲。
都から熊野へ絹を奉納する使者が、和歌を詠んだため遅参して縛られてしまったところへ
神の憑いた巫女が現れ、使者の遅れた理由を説明し、歌の上の句と下の句を詠み合って
縄を解き、和歌の功徳を説いて舞う・・・っていうお話。(←超要約)

使者が登場したと思ったらすぐ縛られるのもそうだけど、縄がかけられた途端
「ちょっと待った!」って時代劇みたいにタイミングよく、シテが登場したのにビックリ。
天竺で釈迦が仏になったのは和歌のおかげであると言い切ってしまうのも
強引というかよくわからない理屈だな~~と思わなくもなかったけど(^_^;)
そんな不思議な展開にもかかわらず、シテの舞にみとれてしまう。
やや中高なため優美で冷たい印象を与える面が、シテの中性的な雰囲気に合っていたと思う。
シテの、クールな声質ながらしっかり通った謡や、ゆるやかだけどキレのいい舞の残像を
ぼーっと追っているうちに~~曲が終わったといった感じ。
(次回の鑑賞の参考になってないな~ ^_^;)

「竹雪」
宝生流喜多流にしか現存しない珍しい曲とのこと。
物語の舞台となった直井は、新潟県上越市直江津あたりだそうで、
わりと最近、新潟市の雪見能で塩津哲生さんがつとめられたらしい。
よくある継子いじめのお話で、肌着一枚で竹に積もった雪払いをさせられて凍死した子が
実母と姉の愛情と竹林の七賢の功徳で生き返るというもの。

それにしても、わざわざ金沢まで行って、このキャスティングでお能観ちゃうとは・・・。
なんだか諸江屋に行ったら「夜の梅」が出てきた、みたいな感じもするけど(笑)
「金沢の『夜の梅』」、大変結構でございました~♪

こういうストーリー性の強い曲を初めて観るときって、「その場面どう表現するのか」が
気になってしまい、月若が凍死する場面は間狂言の語りに任せちゃうのかな?
あまりにも「そのまんま」な表現はしないんじゃないか?と思ってたのだけど・・・。
銀箔を擦った白絹(?)で、雪にうずもれた月若の体を覆う表現はすごいセンスです!
雪が美しいほど、その冷たさと哀れさが きわ立つようで。
おそろいの白い水衣、雪の積もった笠姿のシテ(実母)とツレ(姉)の美しさも哀しい。
月若役の子方はお正月に「草紙洗」の帝をつとめたときより、背がぐんと伸びて
それ以上に謡がしっかり成長していて、この一年間の彼のお稽古ぶりが窺われました。
生き返る場面で「待ってました!」とばかりにぴょこっ!と起き上がったのには笑ったけど。
(周りからも「ふふっ」という笑い声が・・・そこ、笑う場面ぢゃないって(^_^;)

「竹雪」はストーリー性重視のせいか、登場人物全員がそれぞれ自己主張していて
シテを中心とした求心力に欠ける構成では、と「?」を感じる曲ではあったけれど
その分、シテ&他の演者も(特にツレ、間)わかりやすく面白かったです。
(継母役の間狂言の、シテ(先妻)と夫の関係への嫉妬の表現が実にさりげなくて◎)
お囃子も見所のテンションに共鳴するような盛り上がりをみせてくれました。
こういう「お涙頂戴系」はニガテな私だけど、そこはやはりお能

例のごとく坂道をとことこ歩いて帰ったけれど、
ちょうど前日の雪がまだ竹ならぬ松の枝に残っていて
この日の番組にふさわしい雪景色でした。