「旧金剛宗家伝来能面」(三井記念美術館)

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☆「旧金剛宗家伝来能面」54面の重要文化財新指定記念 
  寿ぎと幽玄の美 「国宝 雪松図と能面」

夕方、日本橋三井記念美術館へ能面を観に行ってきました。

今回展示される能面は、三井家所蔵の旧金剛宗家伝来の能面54面で
以前重文指定された4面に加え、この春新たに50面が一括指定されており、
本面(写しのオリジナル)を含め、54面一度に見られる貴重な機会です。

旧金剛宗家は昭和11年に後継者がいないため断絶しており、この面は昭和10年
金剛右京の死の前年に三井八郎右衛門が譲り受けたというもの。
現在の金剛宗家は、分家の野村金剛家が宗家を継承して今日にいたっています。
解説によると、麻布の三井邸は昭和20年の空襲で全焼したものの、
能面は他の美術品とともに大磯の別邸に疎開させたため、焼失を免れたそう。
こうした文化財が今日伝わっているのは、それを引き継いでいく人たちの
なんとしても残していこうという強い意志を感じさせ、本当に大変なことなのだと思います。

最近、金剛宗家を継承した初世金剛巌の「能と能面」(昭和26年初版本)を
ひょんなことから入手する機会を得、読み始めたばかりなのですが
三井家所蔵の面について書かれてあるので、この企画展はぜひ観に行きたかったのです。

・・・前置きが長くなりましたが、結論からいうと能楽ファン必見の展示でしょう。
素人目にも造形の美しさや品位の高さを感じさせる面が多く、さすが宗家伝来。

ちなみに、三井家ご自慢の茶道具もこの企画に合わせて能をモチーフにした展示。
利休が長次郎の楽碗を求められて、三碗のうち二つを送って一つだけ残されたものに
俊寛」の銘をつけた長次郎作の楽碗なんて、遊びゴコロを感じさせます。

以下、特に印象に残った面。

「翁(白色尉)」(本面・伝春日・室町時代
 ポスターなどで見る「翁」より、やや中高な顔立ちで人間臭い感じの面。
 今日の翁面への進化(?)の過渡期を見るような感じで面白い。

「花の小面」(本面・伝龍右衛門・室町時代
 秀吉が愛玩した伝説の小面。花の銘にふさわしく、華やかで艶麗な雰囲気。

「孫次郎 オモカゲ」(本面・伝孫次郎・室町時代
 金剛太夫(孫次郎)が若くして亡くなった妻の面影を写したという伝説の女面。
 寂しげな切れ長の二重の目に、なんともいえない雰囲気があって忘れがたい印象。
 個人的には、向かって斜め右から見た横顔に気品と艶があって好きです。

「泥眼」(本面・伝龍右衛門・室町時代
 濡れたような瞳と髪が、ひんやりと妖しい感じ。
 海底の宝珠を自らの肉体を犠牲に手に入れたという「海士」の海女に
 エロティシズムを感じるせい?!

龍右衛門の女面は小面~般若までほぼひと通り揃っていて、「女の一生」能面版でしょうか。
男から見た女、ってこう映るのかしらん。それにしてもザンコクな男ね!

「不動」(無銘・室町時代
 「調伏曽我」の専用面。演者の顔から離れなくなり、無理に離したら顔の肉が剥がれた
 ・・・という伝説の「肉付き面」。本当に仏像っぽい。「調伏曽我」観てみたくなりました。

「大喝食」(伝春若・室町時代
 面食いの私は、こういうキリッと爽やかなイケメン君好きです~(←ばか)
 イケメンなだけでなく知性も感じさせる美しい面。まさに「自然居士」のイメージ!

「景清」(伝出目満照・桃山時代
 全体的に線の細い顔と、造形的な皺が印象的。誇り高さと苦悩を感じさせる品のいい面。

「痩男」(伝日見・室町時代
 塗り直しもあまりしていなかったのか、塗りが剥れて不気味な面でした。夜見たくない~!
 生気のない肌、骨と皮ばかりの顔、うつろな眼は、まさに死者の顔。
 こういう人間の弱さ、あさましさを抉り出す、日見という面打師の洞察力は凄いです。


こないだの月並の、今井泰男さんと近藤乾之助さんの舞台でも思ったことだけど、

やっぱり、いいものはできるだけ観た方がいいな~。(当たり前のことだけど)

54面のなかには、面自体の個性というか主張が強すぎて
文化財としての価値と、実際の舞台に向くかどうかは別かもしれないなあ~
と思えるものもありましたが、なかなか見ごたえのある美術展でした。
華麗なる一族パワー、おそるべし!


(※写真は図録と金剛巌著「能と能面」初版本。図録表紙は孫次郎)