代々木果迢会 十周年記念別会(国立能楽堂)

能「清経 恋之音取」
シテ  :小早川 修
ツレ  :武田 友志
ワキ  :野口 敦弘       
笛   :一噌 仙幸
小鼓 :曾和 正博
大鼓 :國川  純       
地頭 :武田 志房
主後見 :武田 尚浩

狂言「福の神」
シテ  :山本東次郎
アド  :山本泰太郎  山本 則孝

一調 笠之段
謡   :浅見 真高
大鼓 :國川  純

能「巻絹 諸神楽」
シテ  :浅見 真州
ツレ  :武田 文志
ワキ  :高井 松男
アイ  :山本泰太郎       
笛   :一噌 庸二
小鼓 :幸 正昭
大鼓 :佃 良勝
太鼓 :小寺 佐七       
地頭 :野村 四郎
主後見 :観世 恭秀

能「望月」
シテ  :浅見 慈一
ツレ  :長山 耕三
子方  :小早川康充
ワキ  :村瀬  純
アイ  :山本 則孝       
笛   :一噌 幸弘
小鼓 :鵜澤洋太郎
大鼓 :亀井 広忠
太鼓 :金春惣右衛門       
地頭 :山本 順之
主後見 :観世銕之丞


今年最後の観能です。
お能を観始めて1年以上にもなるのに、国立での観能はなんと今回がはじめて!
(そして今日も長文です)


「清経 恋之音取(こいのねとり)」

今年3回目の清経。「恋之音取」は9月の国家指定芸能と同じ、仙幸さんの笛。
「恋之音取」とは、笛の音とともにシテ(清経)が登場する、笛の重い習い物。
この小書がつくと開演後の入退場は一切できないので、能楽堂入りしてすぐ席に直行。

仙幸さんはよく言えば上品だけど、ヒシギが弱々しいのがちょっと気になりました。残念・・・。
小早川さんは~~まさに清経そのもの!もう、夢に出てきそう♥
「恋之音取」、橋掛かりのシテと笛が静止する瞬間の静寂がよかったです。
三井寺」もそうだったけど、小早川さんは出が本当にキレイなの!
装束は明るい抹茶色の地に金糸で刺繍した法被、朱と白の段替の厚板、
半切は白地に香色(シャンパンゴールド)の波模様に千鳥という、凝ったもの。
金春、宝生と比べてかなり華やかで、平家の公達のイメージにより近いと思います。
詞章は「聖人に夢なし」を省略して「うたたねに~」から謡い出したのだけど、これは
かえって恋の情緒をかき立てます。ツレとの掛け合いも濃やかで、不覚にも涙が出そうに。
このシテは姿だけだなく、凛とした強さと叙情を併せ持った謡が本当に美しいの!
地謡も情緒纏綿たる雰囲気。観世は高音域で甘くふわっと謡い上げる感じがします。
入水する場面は、「底の水屑と沈みゆく、憂き身の果てぞ悲しき」で、
静かに膝を落とす型で、悩める公達・清経の死って感じがしました。

それにしても「清経」は、夢でいいから逢いに来て・・・って女ゴコロにぐっとくる曲ですね(笑)
シテはやっぱり美しくなくちゃ!と思った一番でした。


「福の神」

私の好きな、山本家こと東次郎&則ナントカーズの一番。
あの「は~~っ、は、は、は、は、は~~」っていう高笑いといい、
東次郎はきわめて様式性が高い芸風だと思うのだけど、様式をつきつめていった先にこそ
演者の個性というものが現れるのかもしれない、という気がする。
「富貴になるには、元手がかかる!」という福の神に、
「福の神のおっしゃることとは思えません!」と返す則孝(泰太郎だったかも・・・^_^;A)
で、幸せになる元手とは、心の持ちようなんだよ、っていうオチがいいお話でした♪


「巻絹 諸神楽(もろかぐら)」

金沢で観たばかりの曲なので、謡本(観世)を用意していったらパンフに詞章が(^_^;)
お流儀が違ったり小書がつくと、がらっと雰囲気変わるものなんですね。
金沢の渡邊茂人さんは、葡萄色の長絹に真紅の緋大口、髪はサラサラストレートだったけど
今日の真州さんは、朱と白の梅の刺繍を施した白の長絹、朱色の緋大口、
丸く結わえた束髪は長絹の上に出し、弊を結んだ白梅の枝を手にした、巫女そのものの姿。
梅を愛したことで知られる天神(菅原道真)のイメージを前面に出してました。
ノットに入ってから、小鼓が同じリズムを高、低、高と打ち続けるのが催眠的な感じで
私まで何かに取り憑かれたように猛烈に眠くなりました。これってトランス状態?!
神楽の舞もお囃子も独特な雰囲気があって、ずーーっとゆるやかだった舞が
まさに狂ったような激しさになり、橋掛かりで弊を取り落とす場面で「あ、我にかえったな」
と、神憑りの様子がわかりやすい舞台でした。今回もやっぱり不思議な曲・・・。
この曲は、由緒ある神社の奉納能として、できれば夜、観てみたいなあ。


一調「笠之段」

一調を聴くのは初めて。
小鼓や大鼓の独奏って音曲として成立しないのでは、と思うのだけど
謡と合わせるとすごくいいですね!
「笠之段」は難波津の広がり、鄙びた雅やかさを感じさせて好きなくだりです。
浅見真高さんは声量は小さめの方だけど、寂びた謡が雰囲気に合っていたと思います。


「望月」

主君を殺され、宿の主に身をやつしたシテが、主君の北の方と若君と知恵を合わせて
仇討ちをするというドラマ仕立ての曲。望月とは、仇の名のこと。
殺意を胸に獅子舞をするシテはもちろん、ツレ(北の方)、子方(花若)、ワキ(望月)全員
見せ場があって、現代劇のような演劇性の高い曲です。
印象に残ったのは子方の小早川康充君(小早川さんの次男)。大人を食いかねない花若でした。
子方というより、小さな大人という印象すらあって、先が楽しみです。

能の受容史って、機会があれば勉強してみたいな~って思っています。
(その曲が、どういう歴史的状況で・どんな観客を想定してつくられたのか、
初演時の受け入れられ方はどうだったんだろう、ということに興味があるのです)
こういう曲って江戸時代あたりに、そう格式ばらない場で演じられたのかなあ?
パンフの詞章をほとんど見る必要がないくらい、詞章もわかりやすかったし。
仇討ちだって、望月は小澤(シテ)の宿に泊まってるんだから、
わざわざ芸を見せなくたって、夜中に寝込みを襲えばいいじゃんって思うのですが、
「小袖曽我」で正体がバレそうになったり、獅子舞をしたりってスリリングな展開が
きっと当時の見所でウケたんじゃないかと思います。現代人の私も楽しかったし。
お囃子は幸弘、洋太郎、広忠と揃えば(惣右衛門もいるけど)、パワー炸裂!
特に獅子舞が出る直前なんて、もう吹きまくりの打ちまくり~♪
滋一さんの獅子舞、お正月の獅子舞と同じ動きだったのも、かえってビックリでした。
金の扇を二枚重ねて頭頂部に載せたもの&赤頭で獅子舞に見立てるアイディアが、
なんだか前衛的な感じすらしました。


そんなわけで、今年の〆にふさわしい、充実の舞台でした。
三番すべて装束が凝っていたのも楽しめたし。
来年も楽しみ~♪