国立能楽堂 特別企画公演「能と組踊」第一日目

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組踊「花売りの縁」
森川の子 :神谷 武史
乙樽   :宮城 茂雄
鶴松   :豊永 姫子
猿引   :赤嶺 正一
猿    :譜久里 紫温
薪木取  :瀬底 正憲
後見   :大田 守邦 /新垣 悟
地謡
歌・三線 :比嘉 康春 /新垣 俊道 /中村 逸夫
筝    :宮里 秀明
笛    :宮城 秀夫
胡弓   :又吉 真也
太鼓   :比嘉 聰
指導   :瀬底 正憲

能「芦刈」
シテ/日下左衛門 :観世 銕之丞
ツレ/左衛門の妻 :坂井 音雅
ワキ/妻の従者  :宝生 欣也
ワキツレ/供人  :梅村 昌功  御厨 誠吾
アイ/所の者   :野村 小三郎
       笛   :松田 弘之
       小鼓  :曽和 正博
       大鼓  :柿原 弘和
       後見  :清水 寛二 /浅井 文義
       地頭  :坂井 音重


国立劇場おきなわ開場5周年と国立能楽堂開場25周年を記念し、沖縄と東京で連続して能と組踊を組み合わせた特別企画公演「能と組踊」。
同じ本説(能の原典になった古典や和歌)をもとに、能と琉球王朝伝統芸能「組踊」を上演するというユニークな企画です。
ちなみに、第2日目は組踊「女物狂」と能「隅田川」。

組踊を観るのは初めてでしたが、これがなかなか面白い公演でした!!

「花売りの縁」「芦刈」の原典は、大和物語「芦刈」です。
大和物語の「芦刈」は、貧しさゆえに愛し合っていながらも別れた夫婦が、都の貴人の後妻と芦刈の下人として再会するが、夫は恥じ入って姿を消すという悲しい物語です。
能と組踊では、妻は貴人の乳母に出世して夫を迎えにいくという設定なのでハッピーエンド。
(私は夫が歌を詠んで走り去る「大和物語」の方が、ブンガク的完成度が高いと思います)
組踊では主人公は芦刈ではなく花売りで、幼い息子がいたり、「笠の踊り」に加えて猿引きや
薪木取りが登場する「芸尽くし」の趣向が濃厚に出ているところが能と異なります。

以下、国立能楽堂の美麗なパンフレット(有料・詞章つき)をもとに、解説&おさらいを兼ねて
ちょっとご紹介。

組踊とは、第二尚氏第13代尚敬王冊封(1719年)にあたって、踊奉行であった玉城朝薫が
かねてから造詣の深かった能を参考に、琉球の伝統的な音楽や装束、言葉を用いて創出した伝統芸能です。
琉球王国では、国王の冊封時は明から王冠を受けることになっていたため、冊封使の接待は政治的に重要な意味を持っており、組踊の担い手は芸人ではなく王府の士族たちだったそう。
玉城朝薫の後、組踊は式楽化され士族たちの娯楽・教養として発展しました。

前置きが長くなりましたが、鏡の間で拍子木を打つ音とともに、演者の登場です。
まず切戸口から「地謡(ジウテー)」が登場。能の地謡・囃子に相当する彼らは地謡座に着座。
笛と胡弓の明るく爽やかな旋律が能楽堂にゆったりと流れ、揚幕から紅型姿の乙樽(妻)と鶴松(子)が、並んで出てきます。こちらもやはり、摺り足です。でも足袋は真紅!
組踊も男性が女性役をつとめ、女性や子どもの役は定型の旋律で台詞を「歌い」ます。
この乙樽は中性的なやわらかい声で、鄙びた優雅さを感じさせます。能の女性にはあまり感じられない母性的な包容力というか懐かしさとでもいうのだろうか。一つのメロディを延々と繰り返し用いての台詞まわしで、なんか独特な雰囲気がありました。

ワキの道行で「はや~に着きぬ」と、ばびゅん!と目的地に到着するお能と異なり、そこはさすが南国で(笑)、旅の途中で猿引に夫の所在を尋ねるついでに猿の踊りをねだっちゃうくらい、
の~んびり旅をしているんです。
猿引きに「明日も来てね~」と言われたら「じゃ明日も見せてね~」なんて言うし。このお猿さん(ぬいぐるみ着用)のナギナタを使っての舞&ジウテーがなかなかよかった。
この後も、薪木取のお爺さん(兼指導担当)の長い語りがあったりして、森川の子に再会できるのはかなり後の方。零落した生活の中でも、花を育て歌を詠む優雅さを失わない 森川の子の様子が語られる(だから落ちぶれちゃったのかもしれないケド・・・)

こんな調子で一体いつになったら森川の子が出てくるんだ?!と思う頃、ようやく主役登場。
「笠の踊り」は、「芦刈」に比べてずっとストレートな詞章で生活の苦しさ、妻子との離別のつらさを語ります。
森川の子が我が身を恥じ入って作り物の小屋に籠るところは、宝生流にならったとのこと(観世の常の演出では作り物は出さないそう)。
でも満次郎様の「芦刈」は作り物ナシだったから、宝生も小書がつけば作り物を出すのかな?
この作り物も南国仕様なのか、大和の能よりずっと ゆとりの住まいです(笑)
妻と子の切々とした訴えに小屋と心の扉を開き、鶴松を抱きしめる森川の子。もう決して離さないよ!という風情で寄り添って橋掛かりを歩く夫と子の後ろに続く妻。
詞章といい、愛情表現といい、能には絶対ありえないストレートな表現のオンパレードで、やはり気候とか文化風土の違いを感じさせますね。

玉城朝薫の作った曲には、他にも「執心鐘入(道成寺)」「二童敵討(小袖曽我)」「銘刈子(羽衣)」「女物狂(隅田川三井寺)」など、能を本行として琉球の伝説をブレンドしたものがあります。
「執心鐘入」と「道成寺」の抱き合せ公演なんて見てみたい気もするけど、いっぺんに二回もあの鐘入りを観るなんて疲れそう~(×0×)
小鼓のないジウテーには、乱拍子ってあるのかなあ?

(続きます)