金沢能楽会 四月定例能

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素謡「清経」 (藪 社中)

能「源氏供養」
シテ 藪 俊彦
ワキ 苗加 登久治
ツレ 平木 豊男  北島 公之
笛  片岡 憲太郎
小鼓 住駒 俊介
大鼓 飯嶋 六之佐 
地頭 広島克栄 

狂言「船ふな」
太郎冠者  増田 秋雄   
主       野村 祐丞 

能「来殿」
シテ 髙橋 右任
ワキ 北島 公之
ツレ 平木 豊男
笛  高島 敏彦
小鼓 河原 清
大鼓 中村 宗雄
太鼓 飯森 友春
地頭 渡邊容之助

              (4月12日 石川県立能楽堂)
 

公演から一週間も間があいての掲載になってしまいました(4月19日現在)
写真の桜も、今頃はもう、葉桜になっているんだろうなあ・・・。


「源氏供養」
紫式部の亡霊が、源氏物語の巻名を織り込んだ表百を読み上げ、光源氏の供養とともに自らの成仏も願って回向を果たす、という淡々としたあらすじの曲。
華やかな舞事があるわけでもないかわり、詞章に源氏物語の巻名が巧みに取り入れられているので、ことば遊びの要素が強い曲だと思います。

実はこの曲、私には一勝二敗の曲なんですよね。。。
今までに喜多、宝生、金春と3回観て、一睡もしなかったのは本田光洋さんの舞台だけ(・_・、)
今回は前の晩にたっぷり眠ったし、ミニ謡本(ただし観世)持参で気合入ってます♪

シテは中背で細身の方で、面を曇らす様子や袖の動きがしっとりした雰囲気。
前シテは朱と白の段違いの地に、赤や青味がかった緑色の柄が入った唐織姿で、里女としてはやや強い感じの装束。前場は割とあっさりめで、あっというまに「かき消すやうに失せにけり」。
後シテは濃紫の長絹、鮮やかな緋大口姿に前折烏帽子をつけて登場。面は増かな。たおやかな雰囲気の美しい面ですが、装束の強さが内面の強い自我をも物語っているようです。
ところで、前から不思議に思っていたのだけど、前折烏帽子って白拍子のかぶるものじゃないですか?手元の謡本にも「柏崎」「百萬」「道成寺」に使われるとあって、物狂とか芸能者のトレードマーク(?)の前折烏帽子をなぜ紫式部がつけて出てくるんだろう??後場紫式部白拍子に憑依して現れたのかなあ、なんて思ってしまいました。このへんにも王朝文学をモチーフにしつつも中世の匂いを感じます。
私のそんなギモンをよそに、聴き所である表百が読み上げられます。ここの詞章、ひとつひとつのセンテンス自体には意味がないのだけど、つなげていくと「源氏物語」は無常を説く方便になっちゃうというすごいシロモノなのです。もちろん、そんな抹香臭い要素を抜きにしても耳にやさしい、美しい詞なのですが。
終盤の舞も派手ではないものの、水が流れるようななめらかな動き。淡々としていながら女性らしいやわらかさがほのかに漂います。
「気合入ってます!ばしばしっ!!」と打ってくる大小とのマッチングもよく、ひるがえる長絹をボーッと目で追っているうちに、二勝二敗へ記録を更新していた私でした。


「来殿」
宝生以外の流儀ではこの曲は「雷殿」。菅原道真の怨霊を取り上げた五番目物です。
加賀藩主前田斉泰公の代に、前田家の先祖とされる菅公が怨霊となって暴れる話はマズイだろうということで、霊と僧正が対立する「激越な後場」を、天神となった菅公が死後の名誉回復を喜び、舞い遊ぶという内容に改作したのだそう。

前シテの怨霊は面をものともしない低いよく通る声で、茫々の黒頭に柿色のような地味~な狩衣姿で橋掛かりから出てくる姿は、不気味な雰囲気。面も痩男系(?)なのか土気色の死人の顔そのもので、落魄のうちに恨みを呑んで死んだ様子がうかがわれます。
柘榴を噛み砕き妻戸に吐きかけて火炎を燃え上がらせ、「禁裏にお礼参りに行ってやるっ!」と呪詛のことばとともに姿を消す怨霊。。。こういう暗~い怨念(明るい怨念なんて普通ないと思うけど)を感じさせる曲、私の好みかも♪
お囃子は源氏供養コンビの直後だっただけに、もうちょっと暴れてほしい(?)気もしました。
後シテは君子豹変す、じゃあありませんが(本来の意味は逆)、中将の面にクリーム色の狩衣姿で登場。僧正の祈祷が通じ、菅公の怨霊は天神となって現れたのです。
このおシテも中背細身の方で、若くスリムな管公。三番目物が似合いそうな ほっそりと優しい雰囲気です。
しかし、前場の禍々しい余韻を残したまま中入した直後に、この展開にはやはり無理があるんじゃないかという気がします。
前シテの怨霊テンション(意味不明)がいい感じだっただけに、唐突な感じがするというか、
う~~ん、やっぱり「激烈な後場」を見せていただきたかったな~と思いました。


兼六園横から広坂に下りる坂道は桜のトンネルで、いつもよりのんびり歩いて帰りました。
この坂道は金沢でも私が好きな場所のひとつです。
ちょうど盛りをすぎた桜の花びらが、風花のようにまぶたに頬に舞い落ちてきました。


山桜散りてみ雪にまがひなば いづれか花と春に問はなむ
                           (新古今・巻第二107・伊勢)