四月 五雲会

久しぶりに五雲会に行ってきました。
そういえば、年明け以降 金沢に行くまで宝生流はごぶさたでしたね~。
今月の五雲会はメリハリがきいているというかバランスの取れた番組構成。
四番全部観ましたが、いずれも若々しく雰囲気があってとっても楽しかったです♪

竹生島
初番にふさわしく、華やかで爽やかな余韻の残る舞台でした。
この曲は 一年前に石綿さんから、「波兎」を意匠にした金沢の瓦のお話を教えていただき、詞章の美しさにあらためて気づかされましたっけ。一年って早いですねえ。
地謡が明るい響きで、琵琶湖の竹生島参りに向かう舟からの情景描写が生き生きと伝わってきます。「波兎」は舟が竹生島に近づいてきて、島の樹々の影が湖面に映る様子を描いた
「緑樹影沈んで 魚木に登る気色あり 月海上に浮かんでは 兎も波を奔るか 面白の島の景色や」(樹々の影が湖畔に映って、魚たちがまるで木を登っているかのようだ。月明かりでできた波間の道を、うさぎが奔けて行く なんという不思議な島の景色よ) からきています。
月明かりで波の端が白く光る様子を、兎が波間を駆けていく姿にたとえているこの場面、絵画的でexpressiveな詞章です。こんな月夜の竹生島クルーズ、私も同乗したいな~♪
おシテは、今までツレの天女などで何度か拝見していて、すらりと可憐なイメージがあったけれど、この舞台でちょっと印象が変わりました。後シテの竜神は橋掛かりに姿を現してから一陣の風が吹き抜けていくように舞台に踊り出て、息を呑みました。線が細い感じながら力強くキレのいい舞で、若手ならではの爽快な一番。今後の舞台も楽しみです♪

「田村」
竹生島、蝸牛に続いて この曲もいい意味でテンションの高い舞台でした。
シテはやや中性的な感じの声(というか謡い方)で、前シテの童子の雰囲気に合っていたと思います。縫箔も三番目物に出てきそうなレディスライクなお花の意匠。
シテが清水寺の縁起をワキと謡う場面、これも春爛漫といった風情なのですが、この場面では気持ちよく眠ってしまうとこ・・・踏みとどまりましたけど。ああ、あぶなかった~(^◇^;)
後場は、シテもお囃子も「待ってましたっ!」といった感じでスパーク!特に笛は冒頭から元気よくヒシギを吹いてたのだけど、お囃子の打楽器って、大小&太鼓だけじゃなかったのね・・・って思うくらいビートをきかせて大小に対抗してました(一体、何の舞台の感想なんだろう ^_^;)
後シテは小気味よい立ち回りで、修羅物観たな~っ♪という満足感が味わえました。

「吉野静」
三番目物なんだけど、「忠信吉野山の合戦」(義経記)をもとにした「忠信」の静バージョンみたいな感じの曲で、なんとなく講談ものっぽいテイスト。
静って悲劇のヒロインのイメージがあるけど、「平家物語」では敵の来襲を察知して義経のピンチを救ってるし、「吾妻鏡」には有名な「しずやしず・・・」の舞のエピソードもあるしで、実は結構鉄火なオンナなのかも。。。という気がします。
おシテは、去年のお正月に金沢で「弓八幡」のツレを拝見して以来なのだけど、今回は謡いの第一声を聴いた瞬間、兄君に声がそっくり!でびっくりしました。声質というか謡い方が。まあ、当たり前かもしれません。「竹生島」のシテも、「来殿」のお父様に姿以上に謡が似ていたし。う~ん、こういう形で親子間で芸が継承されるのかあ・・・と感心してしまいました。
この静は大柄ながらもやさしく、おっとりした雰囲気です。舞い終わった後、彼女は何事もなかったような顔をして義経との待ち合わせ場所に向かったのでした(たぶん)

「善知鳥(うとう)」
今回 唯一平均年齢高めの舞台で、実はひそかなお目当てでもありました。
このおシテは、昨年末 「蝉丸」のツレで、ほとんど居グセのまま 前場の空気を一人で引き締めていた姿が印象に残っていて、この方の舞台は絶対観よう!と決めていました。
しかも「善知鳥」・・・親鳥の声を真似て仔鳥を狩った猟師が、殺生の罪で死後 鳥やけだものに襲われるという、凄惨かつ深い内容。期待が高まります。
前場では、シテ(亡霊)の動線は橋掛かりの上だけ。暗く長く果てのない道を、一人歩く亡者。
自分がもう死んだということを妻子に伝えてほしい、と証拠の品として衣の袖を引き裂く場面は、異様な緊張感が漂っていて目が離せません。
妻子の前に亡霊が現れる場面で、常好さんが階の前に鳥に見立てた黒い塗笠を置くのですが、この笠が亡霊と妻子の再会を妨げる結界のような構図に見えて、前衛的な演出だと思いました。
(そういえば、「望月」にも 笠を仇討ちの相手に見立てて刺し殺す場面がありますね~)
シテは面の微妙な傾け方といい、杖の扱い方ひとつとっても非常に繊細な表現をされる方で、抑制された動きの中にも雰囲気があって美しい。横障(煩悩)の雲に遮られて我が子の髪をなでることすらかなわないシテが舞台中央に座り込み、うつろな目で笠(鳥)をじっ・・・と見つめているうちに猟の興奮がよみがえる様子が凄かったです。
パンフレットには「一種の残酷美の極致」とあったけど、こういう舞台、かなり私の好みかも。 
人間が生きていく上で犯さなければいけない罪の深さというか、生きていること自体が罪を犯していくことなのだ的な表現、ほんとにお能ならではですね。
シテが橋掛かりを去っていくとき拍手が鳴らなければ、もっとよかったのに。

(追記)
後シテの扇は、金地に地獄の業火のような黒い火焔という斬新なデザインで、これも目を惹きましたが、どこかで観たなあ~と思って家に帰って蔵書を確認したら、「幽霊扇」といわれるものだそうです。「求塚」の他、「阿漕」「善知鳥」など地獄の呵責に苦しむ男の亡霊に用いられる意匠なんだそう。いい扇でしたね。