DVD「能楽名演集 『井筒』」(観世寿夫)

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能楽名演集「井筒」(77年放送)
シテ 観世寿夫
ワキ 宝生閑
笛  藤田大五郎
小鼓 大倉長十郎
大鼓 瀬尾乃武
地頭 観世静夫

3月に国立で衝動買いしたDVD、今日やーーっと観ることができました。
観世寿夫の「井筒」。
寿夫は78年に亡くなっているから、ほとんど晩年の舞台です。

もう30年以上も前だから当たり前ですが、みんな若い!特に現銕之丞!(笑)
閑さんのお声がそのままだったのには感動しました~。
お亡くなりになった方も結構いらっしゃいます。
大倉長十郎なんて「源次郎!なぜここにいるの?!」というくらい源次郎そっくり!
すらりとした長身やうつむいた顔は生き写しといっていいほど。声は正之助だけど。
藤田大五郎の笛が本当にすばらしくて、生前聴きに行かなかったことがちょっと悔やまれます。

で、肝心の寿夫ですが・・・・・・。

寿夫自身の著作や関係者のコメントなどから、すらっとシャープなイメージを抱いてたのですが

意外に・・・ぽっちゃりさんでビックリしました。

いや、体型じゃなくて雰囲気はですね、意外に「強い」印象。
「冥の会」とか「能楽ルネッサンスの会」を立ち上げたくらいだから、うんと華やかで斬新な芸風かと思ったら、謡なんか意外と(?)古典的な雰囲気です。

前シテの里女は、太字の万年筆で書かれたようなしっかりした性格というか、どちらかというと理知が勝っているような印象を受けました。
それが後シテになると、がらっと雰囲気が変わって、もう己の狂気の内に 愛する業平と永遠に二人だけで閉じこもろうとするかのような感じ。
映像とはいえ、「我筒井筒の昔より 真弓槻弓年を経て。今は亡き世に業平の 形見の直衣 身に触れて 恥かしや」ってくだりなんか、直に訴えかけてくるものがあって、ゾクッとしました。
特に薄をかきわけ井戸の水面をじっ・・・と見つめる姿は、静かな狂気を内にたたえているといった風情で、ややあって「・・・見ればなつかしや」とため息がもれるような謡い方。詠嘆調じゃないだけに説得力があります。
橋掛かりから退場していく場面は井筒と薄がアップになって、寿夫の後姿が幕の向こうの闇に消えていくところを映していたのですが、なんだか本当に幽界に消えていく・・・という余韻が感じられてよかったです。

正直なところ、「百年に一度の才能」云々はあまりピンとこなかったのですが、内面性の強い表現で、同じくNHKに収録された「俊寛」も観てみたいな~と思いました。

面や装束はたいへん凝ったもので、アップで観られるのは映像作品のよさかも(笑)
寿夫が井筒に曲見を用いる話を書いていたこともあって、ひょっとしたら曲見かな~なんて思っていたのですが、可憐でどこか寂しげな面差しのクラシカルな小面でした。
後場の装束は、白銀の摺箔に、白い藤と金扇と花を大胆にあしらった江戸紫に近い濃紫の長絹を重ね、真紅の縫箔は金の流水と水辺の鳥の意匠。今まで見た長絹では一番華やかかつモダンなもので、布の張りからみてまだ新しいもののようでした。
序の舞で袖をひるがえす姿のなんて美しいこと・・・・・・はぁ~~っ。

これは能に限ったことじゃないけれど、ライブ主義というか、「映像資料はただの記録」という意見もありますが、それでも30年の時を経て、当時の雰囲気の片鱗はしっかり伝わってきます。NHKの放送枠(1時間30分)に収めるため、間狂言などを20分近くもカットしている点が惜しまれます。
銕仙会の地謡の響きが、今とだいぶ違うように聴こえるのも面白かったですね。
寿夫と現銕之丞の謡のアプローチがまったく違うのも・・・。