「謎の1セント硬貨-真実は細部に宿るinUSA-」(向井万起男/講談社)

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優雅な読書のお供は~マキオちゃんこと向井万起男さんの新刊です。
マキオちゃんとは――慶応大学病院病理診断部のお医者さん、というより
宇宙飛行士・向井千秋さんのご主人といった方が有名かも。
実は私、 マキオちゃんに会ったことがあり(嘘。病院のエレベーターで乗り合わせただけ)
あのオカッパ頭&ヒゲで「あっ!」と思ったのだけど、たぶんご本人はそんなミーハーな視線には慣れていらっしゃるようでした(^_^;A
本書は大ベストセラー「君についていこう」から、なんと10年ぶりの書き下ろし。

帯に「マキオちゃんとチアキちゃんの大陸横断珍道中」とあるこの本、マキオちゃんがチアキちゃんとアメリカ大陸をドライブ旅行したときに、アメリカやアメリカ人について考えたことや疑問に感じたことをとりあげたもの。
・・・と書くと、「ふぅーん」という感じだけど、マキオちゃんのスゴイところは、疑問を感じるたびに、関連するアメリカのホームページを探し、片っ端から問い合わせのメールを送ってしまうところ。
たとえば、サウスウェスト航空の機体が「うんち色」に塗装されているのを見て、「なぜ貴社では機体が『うんち色』なのですか?」とメールしちゃんですよ!
そしてもっとスゴイことに、アメリカ人のほとんどがそうした「イカレタ質問」にちゃんと返事のメールを送ってくるのだそうです!
味をしめたマキオちゃんはもう止まらない!かくして疑問を感じるたびにアメリカにばんばんメールを送り、会ったこともないアメリカ人とのメールの応酬を通じての異文化体験・考察をまとめたのがこの本だそうです。

本書の白眉は、アメリカ各地のトイレで目にした落書き「Kilroy was here」(キルロイは来たぜ)。
なんでも第二次大戦中に連合軍としてヨーロッパ戦線に従軍したアメリカ兵たちが、自分の到着した場所に書きまくった有名な落書きだという。
でも、なぜ自分の名前じゃなくてキルロイなのか?キルロイとは何者か?どうしてそんな落書きが広まったのか?疑問を感じたマキオちゃんは退役軍人のHPなどにメールを送りまくり、キルロイに関する専門サイトにたどりつき、ついには自ら「キルロイ伝説」を創作してそのサイトに掲載されることになったという顛末記!

全編マキオちゃんのオタクっぷり全開!(暴走?)といった内容で、しかも病理学の研究者らしく、細部から仮説を立てて考察するという文章構成なので、一気に読もうとするとちと疲れます。
でも、全体を通してアメリカ人の「情報を共有しよう」という基本姿勢と、インターネットというツールに対するとらえ方は、日本人のそれとは根底から違うのではないかと考えさせられますね。

そして、チアキちゃんとの仲のよさっぷり!
物事の本質のとらえ方が 二人とも全然違うように思えるのに、お互いの人間性を認め合って役割分担が自然にできてる、っていう関係がステキです。
「君についていこう」より、むしろ本書の方がチアキちゃんの実像に近いんじゃないかとも思える。
シビアな「真実」に突き当たってしまう「空を見上げたポパイ」「黒い革ジャンの少年たち」に描かれたチアキちゃんの洞察力と冷静さ。
「エピソード」での、ガソリンスタンドの女性との短い立ち話からうかがわれる明るさ、聡明さ。
あー、なんだかんだいってもマキオちゃんってば、それが書きたかったのね(笑)

そんなわけで(?)、異色の「異文化体験・考察本」として、オススメです。