第1649回NHK交響楽団 定期演奏会

ストラヴィンスキー / 管楽器のための交響曲
プロコフィエフ / ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19
ラヴェル / 優雅で感傷的なワルツ
ドビュッシー / 交響詩「海」
 指揮|ジョナサン・ノット
 ヴァイオリン|庄司 紗矢香
 
<開演前の室内楽
ハイドン 3台のチェロのためのディヴェルティメント
 平野秀清(vc.) 藤村俊介(vc.) 銅銀久弥(vc.)

(6月7日 NHKホール)


ここ一週間ほどの鬱陶しい雨空が 一瞬開けたかのような真夏日
先月に続き、今月の室内楽も「卒業」を控えた平野さんを中心としたチェロ・トリオ。
楽員の卒業はまだまだ続くとのことで、室内楽も「卒業予定者の会」の趣が(^_^;)

今月のA定期、私の好きな近代フランス・ロシア音楽が並んでいる上に、庄司紗矢香がプロコを弾くという「おいしい」プログラム。
前半のストラヴィンスキープロコフィエフはやや金属的な鋭い響き。
こういう個性的な曲の後に、休憩を挟んでラヴェルドビュッシーの「海」を持ってくるなんて
いつぞや新国立美術館で観た「異邦人たちのパリ」のように、エコール・ド・パリのアーティストたちの作品をバランスよく配置した、よくも悪くも気のきいた美術展を連想してしまう構成。

ドビュッシーの、それこそ うねるような柔らかい音の波に身を委ねていられた「海」もよかったけれど、この日一番印象に残ったのは、やはり庄司紗矢香のプロコ。
兄弟子のレーピンがユリア・フィッシャーの代演をつとめることになったサントリー定期を聴きに行けないこともあって、意識して聴いていたようにも思うけれど、今回もなかなかエッジのきいた演奏でした。

プロコフィエフはヴァイオリンのために協奏曲とソナタを2曲ずつ書いているけど、
フルート・ソナタをアレンジしたソナタ2番を別にすれば、技巧を前面に出したものばかりで、この協奏曲1番も超絶技巧のオンパレード。
冒頭のひんやりとした叙情的なヴァイオリン・ソロのピアニシモが、私の座っている3階前方の席にまではっきり聴こえてくるのに驚かされる。コンサート専用ホールではない、紅白の「NHK体育館」でですよ!何年か前に聴いた庄司紗矢香の音は、弦をガリガリこすっているような弾き方が気になったのだけど、このときのピアニシモは自然に響いていたように思う。あんな細い体の、一体どこからあんな強靭でしなやかな音が出るんだろう。
強靭さを感じさせる音はレーピンにも通じるのだけど、レーピンがしっかりした骨格の中に詩人の抒情を併せ持つのに対して、庄司紗矢香は研ぎ澄まされたナイフがきらめくような印象。特に終楽章での、あのいつ果てるとも知れない長~いトレモロが耳を離れそうにありません。N響も金属的な冷たさの感じられる叙情的で不思議な響き。木管セクションがストラヴィンスキーの世界をそのまま持ち込んだような鋭い音で応酬しておりました。
たぶん、これはきっといい演奏だったのだ、と思う。いい演奏だった、ではなく、と思うと書いたのには、両者の間に何か一枚、薄い隔てがあるように感じられたから。客席の反応も、なにか余白があったように感じられたのは私だけ?アンコール(レーガーだったっけ?)でほっとしたような空気が流れたような気もしました。
それにしても、まだ二十代とは思えない落ち着きと貫禄。リサイタルも機会があれば行ってみたいかな。気圧されそうだけど。

追記:
庄司紗矢香は2年ほど前から画も本格的に描いているのだそうで、フランス人映像作家・パスカル・フラマン氏と共作した映像作品を、13日(土)まで京橋のギャラリー・プンクトゥムで展示中だそうです。庄司本人にとって、絵画は音楽の視覚的表現=「第2のインタープレテーション(解釈)」に位置づけられるものだそう。ちょっとサイトをのぞいてみたのですが、う~ん、色彩感覚が「らしい」といえばいえるかも・・・。