「桜の森の満開の下」(坂口安吾・近藤ようこ/小学館)

イメージ 1

某メガ書店で 近藤ようこの「桜の森の満開の下」「妖霊星-身毒丸の物語」を発見。

新潟県の特産といえば米と酒ですが、漫画家も大勢産出、じゃなかった輩出しています。
有名どころでは高橋留美子めぞん一刻)、水島新司ドカベン)、魔夜峰央パタリロ)。
前の2人までは地元でもよく取り上げられるけど、魔夜峰央が同郷とは知りませなんだ~(^◇^;)

近藤ようこは「ガロ」でデビューした漫画家で、高橋留美子とは高校の同級生。
中世を舞台にした歴史ものに定評があり、謡曲や説話文学を題材にした作品が面白い。
山本東次郎との共著「高校生のための狂言入門」(平凡社ライブラリー)はオススメです。
私が近藤ようこの作品を読み始めたのは国文科の学生時代。当時、中世文学の担当教員に
結構さばけた方がいて、テキスト(自身の著作)に近藤ようこのイラストを採用していたんです。
「説話小栗判官」など、時代考証もしっかりした作品を描いているからでしょう。

桜の森の満開の下は、坂口安吾の同名の短編小説のコミック版。

人を殺すことなどなんとも思わない山賊が、略奪してきた都の女の美しさに心を奪われ、
女のいうままに以前にさらってきた7人の妻たちを殺し、都に上って女と暮らすようになる。
尽きることのない欲望を人格化したような女との暮らしは、山賊にとっては殺人や強奪すら日常のルーチンワークと化した退屈で苦しい日々だった。ついに都暮らしに嫌気がさした山賊は、女をつれて山に帰る途中、魔性の桜の森にさしかかるのだった・・・。

近藤ようこの描く中世の女は、能の女面のような顔なのだけど、この「桜~」では、その「能面のような美しさ」と妖しさが最大限に描かれています。「若女」のように美しい女が、顔の傾け方や口元の緩め方ひとつで、男の魂を支配していく様子が伝わってくるのです。

存在自体が「悪」「欲」そのもののような女ですが、案の定、最後の最後になって彼女の正体が桜の森に棲む鬼であったと明かされます。
でもラストの鬼より、女の姿の方がよっぽど「鬼」らしいのです。内なる「鬼」が、じわじわと画面にたち現れてくるのです。
シンプルなタッチのせいか、かなり残酷な場面も写実に走らず でもエロティックな空気。
中途半端な解釈は一切加えていないだけに、オリジナルの残酷で幻想的な雰囲気がダイレクトに伝わってくるのかも。かなり力を入れて描いた作品だと思います。
こういう表現は漫画だからこそ可能なのかもしれないなあ。
(「桜~」は映画化・舞台化もされているらしいけど)

好みはかなり分かれると思いますが、ひさびさに満足感が得られたコミックでした。
※ちなみに「妖霊星」は、「弱法師(よろぼし)」と同根の説話「しんとく丸の物語」をアレンジした
作品で、タイトルの「妖霊星」は折口信夫による「弱法師」の当て字なんだそうです。


そういや坂口安吾も新潟出身・・・新潟県って意外とキョーレツなのかも。。。