「日本の伝統美を訪ねて」(白洲正子/河出文庫)

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先日帰省したときに、録画してあった新作能「花供養」(シテ:梅若玄祥)を見ました。
私がお能本・エッセイ等を通してなんとな~くイメージしてた「白洲正子」と
多田富雄の描く「白洲正子像」には、かなりギャップを感じたけれど、
とても凝った舞台&メイキングで、なかなか面白かったです。

さて、本書は工芸、十一面観音、着物、骨董、髪、お能、日本人の美意識、文学etc
各方面の専門家、関係者との対談をまとめたもの。
白洲正子の対談集といえば、「男友達との会話」(新潮文庫)があるけれど、こちらが
わかる人にだけわかればいいのよ~的な、読む人を選ぶ(私はあえなく挫折・・・)内容に対し
「日本の~」は、もともと一般誌(プレジデント、週刊文春婦人公論など)に掲載されていただけに読みやすく、正子のフィールドの広さや話術の巧みさを楽しめます。

原由美子との「大人の女は着物で勝負」なんて、ほんとオンナ同士の会話を横で聞いてるかのような臨場感がありますよ~。雑誌掲載時は、対談の中で実際に着付をやったりしてるし。
秦秀雄との「骨董極道」にいたっては江戸っ子口調で、なにやらバクチの話でもしてるみたい。
解説でも指摘されてますが、話す相手や話の流れによって正子の口調が変幻自在に変わり、
まるで生身の声が聞こえてきそうです。

とにかく白洲正子という人は本当にすごい勉強家です。もっとも「骨董を勉強するため」に、当時三十代の正子が青山二郎小林秀雄と毎晩のように徹夜で飲んで朝帰りしていたこと、それに対して次郎が何も言わなかったってエピソードは私には理解不能ですが・・・。あの夫婦にもいろいろあったんでしょうか。

お能は、河合隼雄との「弱法師」と友枝喜久夫との「能」。
河合隼雄の「ワキは精神科医と同じ役割ですね」という指摘は、納得です。
私もお能を観始めた頃、シテとワキの関係って患者と精神科医(orセラピスト)みたいだなあ~と思ったので。ただし患者が西洋人だと、セラピーも西洋劇みたいに「自己把握→問題解決」の流れになるのだそう。
そういえば、お能ってシテが成仏するパターンもあるけど、シテ自身が必ずしも根本的解決を求めてるわけじゃない場合も結構あるような気がします。
あと、「ワキ(医者)が下手だと、正面向いちゃったり自分がシテになったりする」って(爆)
そ、それは困ります~!

友枝喜久夫本人との対談より、河合隼雄との対談の中で語られる友枝の姿の方が興味をそそられるし、正子のお能観が出てる気がします。ついでにいうと、彼女はたぶん寿夫さんのお能はあまり好きじゃなかったかもしれないな。
白洲正子ってよくも悪くも保守だと思うのですが、そんな彼女自身があの「花供養」のシテに変容しているというのが、なんというか、いろいろな意味で興味深いです。