「THE ハプスブルグ」(国立新美術館)

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駅構内の広告につられて行ってきました。

しっかし、サントリー美術館(東京ミッドタウン)、森美術館六本木ヒルズ)といい、
この国立新美術館といい、<六本木アートトライアングル>に集結する女子は
いつ見ても、雑誌からそのまま抜け出てきたような人が多いですね~。
この秋冬のお洋服をチェックするなら、ここで一二時間過ごせばいいかもしれません。

さて、この「THEハプスブルグ」展、コピーで
「ベラスケスもテューラーもルーベンスも、わが家の宮廷画家でした」※
と豪語するだけあって、この絵教科書で見たぞ的な絵画が多く、
そういう意味では、ハプスブルグ家の歴史を知らない人も美術に興味のない人でも、
それなりに楽しめる展示だったのではないかと思います。
国立新美術館は、このての「ハズレない企画」を立てるのが本当に上手いですね(笑)

(※「名画で読み解くハプスブルグ家12の物語」によれば、マクシミリアン1世治世時のハプスブルグ家は火の車で、デューラーをお抱え画家にする余裕はとてもなく、マクシミリアン1世の死後、デューラーは取り立てをしたのだそうですが・・・)

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この企画の目玉のひとつはハプスブルグ家の人々の肖像画で、入ってすぐに「ルドルフ2世(ハンス・フォン・アーヘン)」の、ナスのようにひしゃげた個性的な肖像画が視界に飛び込んできます。
19世紀までは極端な美化はせず、モデルの個性にわりと忠実に描かれていたとあるのも納得の、インパクトの強い作品です。
ただし、美化の有無については疑惑もあって、デューラーの「マクシミリアン1世」(展示なし)なんて、そんなイイ男なの?!と思っちゃうような出来ですよ(笑)
デューラーがモデルの内面を表現したのだとしたら、
孫のカルロス5世と並ぶ男前だと思いますが。

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左は11歳のマリア・テレジア、右はシシィことエリザベート皇后28歳の肖像画です。
これがお目当てで来たとおぼしき、宝塚ファンの女性の姿もチラホラ。
私も、エリザベートのあまりにも有名な肖像画(ヴィンターハルター)を実際に目にしたときには、思わず足を止めてしまいました。3mはあろうかという大きな作品ですが、今にも動き出すのではないかと思うほど生き生きとした肖像で、オーガンジーを重ねた繊細で豪奢なドレスといい、こちらに視線を定める直前の表情といい、エリザベートの魅力を余すところなく伝えています。
しかし、これだけの絶世の美女で感受性豊かな女性であったのに、いや、だからこそ旧弊な宮廷生活にも、凡庸で融通のきかない夫フランツ・ヨーゼフ1世ともしっくりいかず、旅から旅への落ち着きない生活を送り、空虚な内面と生活を埋めるために際限なく美容に励んだのだそう・・・。
絶世の美女でい続けるのも大変だなあ・・・(←ばか)

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この美術展、現在ではウィーン美術史美術館とブダペスト国立西洋美術館に所蔵されている、
ハプスブルグ家の絵画コレクションをイタリア絵画、ドイツ絵画、スペイン絵画、フランドル・オランダ絵画のコーナーごとに展示しており、美術史のちょっとしたおさらいもできるようになっている親切設計です(笑)

スペイン絵画も悪くなかったけど、私が今回一番じっくり観たのはドイツ絵画のコーナー。
左はデューラーの「若いヴェネツィア女性の肖像」、右はクラナッハの「サロメ
デューラーの作品は、本当は「青年の肖像」のほうが印象に残ったのだけど、画像が見つからず残念。ちょっと皮肉な笑いに口をゆがめた、知識階層とおぼしき若い男の肖像なのですが、彼の微妙な表情と襟元を飾る黒い毛皮の毛並が秀逸です。ヴェネツィア女性も利発で清潔感のある個性や当時のトレンドがうかがわれる作品。実物はずいぶん小さな絵なだけに、精密をきわめた線描に、デューラーの気が遠くなるほどの粘着質な性格がうかがわれて面白かったです。

右のクラナッハには、同じ構図・ファッションで「ユディット」という、これまた男の首を抱えて微笑む美女の作品がありますが・・・。内側から上気したような白い肌、秋波を送っているような切れ長の目、痛々しいほど胴を締め上げた豪奢なドレス、重そうな金の鎖風ネックレス・・・小ぶりの作品ながら淫靡な魅力を放つ作品です。修復のためなのか表面がツヤツヤしているのも、この作品の触覚的な印象を強めているようです。
ちなみに会場では、街を守るためにアッシリアの敵将ホロフェルネスを誘惑して首を切り落とすパレスティナ寡婦・ユディットを題材にした作品が2作品(ヴェネローゼ、ヨーハン・リス)、そしてクラナッハの「サロメ」が展示されていました。か弱き(?)美女に首を斬られてみたい願望が、
殿方にはあるのでしょうか??
(上の2作品、いかにも澁澤龍彦ちっくなセレクトだなあ~と思っていたら、やはり「幻想の肖像」(河出文庫)で紹介されていました)

そんなわけで、会場では「へー、ほー、ふーん」といった鑑賞態度で、珍しく図録もお土産も買わずに帰ってしまった私でしたが、こうして書きおこしてみると突っ込みどころもあって、それなりに面白かったです。
ザッハトルテで有名なデメルも出店してたのですが、今思えば、あの猫のベロをかたどったチョコを買わずに帰ったのが惜しまれる・・・。


<おまけ>
「THEハプスブルグ」に興味のある方へのオススメ図書です!
①「名画で読み解くハプスブルグ家12の物語」(中野京子著/光文社新書)☆☆
本展示にあわせて出版された・・・かどうかわかりませんが、この8月に出版された新書です。
著者はベストセラー「怖い絵」で知られる中野京子。ハプスブルグ家の人々の肖像画と、絵にまつわるモデルのエピソードや歴史的背景がコンパクトに紹介されています。

②「ハプスブルグ一千年」(中丸明著/新潮文庫)☆☆☆
ハプスブルグ家のやんごとなき人々が、なんと名古屋弁でみゃーみゃーしゃべっているのにのけぞる一冊。ちょっと、いや、かなりお品が悪いので、人によってはオススメできませんが、ハプスブルグ家創成期から滅亡までの一千年の歴史が講談調でわかりやすくまとめられています。著者は「プラド美術館」(新潮選書)も書いているためか、スペイン・ハプスブルグ家の記述がやや多め。無難さからいえば「プラド」かも。