新・根津美術館展-国宝・那智瀧図と自然の造形-

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根津美術館が3年半にも及ぶ新創工事を終え、今月ようやく開館しました。
青山なんて、歩いているだけでキンチョーしちゃうぜ(←ちょっと本当)

プラダとかカルティエとかD&Gとか銕仙会能楽研修所とか(笑)の並ぶ通りの突きあたり、
信号を渡ってすぐに新しい根津美術館のエントランスがお出迎え。
竹とコンクリートを敷き詰めた長く美しいプロムナードの向こうに、ガラス張りのシックな本館が。
隈研吾設計の新しい本館は、階段とガラスを効果的に使った、変化に富んだ建物ですが
外観はそれほど個性を追求していないので、庭園とよく調和していたと思います。
あえていえば、さほど混雑していなかったにもかかわらず狭く感じられることと、
トイレや傘立てなどの設備がやや使いづらかったのが気になりました。
ファンズワース邸ではないけれど、環境に調和した美しさと機能性は両立しづらいのかな。

さて、新装記念特別展示の本企画は6部構成となっており、仏画あり古筆切コレクションあり古代中国の青銅器だ茶道具だ・・・なかなか気合が入っています。
以下、印象に残ったコーナーのみ紹介。

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「第1部 国宝・那智瀧図と自然の造形」
入ってすぐ、今回の目玉・「那智瀧図」にお目見え。
だいぶ剥落が進んでいて、修復にかなり時間がかかったと聞いていたけれど、その剥落がかえって 滝壺に水がなだれ落ちていく連続の、気の遠くなるような長い時間を感じさせました。
ロングショットで描かれているのですが、その距離のとり方がなんとも不思議で、(ほぼ)永遠に落ち続ける水と時間の流れは、そのまま永遠の静止にもつながるような感覚をおぼえる絵です。
それにしてもこの絵、どこかで見たな・・・と思ったら、杉本博司「苔のむすまで」で、アンドレ・マルローに衝撃を与えた絵としてとりあげられていたのでした。
「この掛軸は絵ではない。(中略)ひとつの記号だ。」「この垂直の水は、二百メートルの高さから落ちているのに不動だ。」
「静寂から生まれた風景。」
「空へ向かってそそり立つ白い剣。」
「(那智の滝の精神は)つねに、下にいる人間と上にある空との対話だ。」
空に向かってそそり立つ白い剣、とは言い得て妙。

第1展示室では、このほかに本阿弥光悦筆の「和漢朗詠集」が見ごたえがありました。
光悦は東博の「大琳派展」でいやというほど目に焼き付けていたし、ひと目で光悦だとわかるほど個性的な筆跡です。金泥で秋草を刷った料紙に、空間をたっぷりとって、おそらく一息に書いたであろう、のびやかな書が美しい。料紙は俵屋宗達の工房で刷られたものなのでしょうか。
ここで足を止める人も多く、「楽しんで書いたんだろうね」「いいねえ」という声が聴かれました。

「第2部 手を競う-王朝びとの筆のあと」
展示室でいえば、ここが一番見ごたえがあったかも。
根津コレクションの中でも有名な古筆切は、紀貫之藤原行成小野道風藤原公任の書もさることながら、表装も洗練されたセンスで美しく、観ていて飽きませんでした。
日本人が「ことば」をいかに大切にする美意識の持ち主であったかが伝わってきます。
美しい「ことば」を和歌という修辞技法で紡ぎ出し、最高の書家の手で「書」へ形づくり、洗練された文様の絹を用いて配色も美しく表装する・・・。
そういえば、「枕草子」のなかで、清少納言藤原行成と気の利いたやりとりをしていたら、ある人から行成の書いた文をぜひ譲ってほしいと取り上げられてしまった、というエピソードが出てきます。当時の王朝びとにとっては手紙は私信としてだけではなく、一種のアートでもあったのだなと実感させられるコーナーでした。

「第4部 古代中国の青銅器」
これは本当にすごいコレクションです。ほとんどが殷(紀元前13~12世紀)の青銅器。
こんだけ集めるのにいくらかかったんだろう・・・なんて形而下的な発想しかわいてこない(^_^;A
古代中国の青銅器の製作技術は、殷の時代にほぼ完成していたのがわかります。
双頭の羊をモチーフにした「双羊尊」もすごい技術だけど、器の表面の幾何学模様や神々のモチーフが精緻で驚かされる・・・殷って実在の王朝で一番古い時代じゃなかったっけ。
中国人が中華思想を持つのも無理ないなあ。

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展示室を出た頃には雨が降り出していたのですが、美術館で傘をお借りできるので、旧根津邸の広大な庭園を散策。
このお庭、斜面に沿って造園されているために起伏に富んでおり、うっかりすると迷ってしまいそうになるほど。HPによるとかなり広大な庭園だそうですが、アップダウンが多く木々がうっそうと茂っているため、やや閉塞感があります。
私、うっかりハイヒールを履いてきてしまったので(なにせ青山だもんね)、雨で濡れて光っている石橋がまさに能の「石橋」に見えました・・・(T T)
どーにかNEZUカフェにたどり着いたときは、山小屋を見つけた遭難者の気分。
とはいえ、お天気のいい日は気持ちよくお散歩できるに違いありません。
ここは歩きやすい靴での訪問をオススメいたします。