喜多流職分会 12月自主公演能

仕舞
「柏崎 道行」  大島輝久
「難波」     佐々木多門

能「天鼓」
シテ :長島茂
ワキ :殿田謙吉
アイ :山本泰太郎
笛  :一噌仙幸
小鼓 :幸信吾
大鼓 :柿原弘和
太鼓 :三島元太郎
地頭 :粟谷能夫
後見 :粟谷幸雄

狂言「福の神」
シテ  :山本則俊
ア ド :山本則重
小アド :参詣人乙 若松隆

能「花筐 」
シテ  :金子匡一
シテ連 :金子敬一郎
子方  :金子天晟
ワキ  :宝生欣哉
ワキ連 :野口能弘
輿昇  :御厨誠吾
輿昇   :野口琢弘
笛    :寺井久八郎
小鼓  :曽和正博
大鼓  :亀井広忠
地頭  :友枝昭世
後見  :高林白牛口二

仕舞  
「岩船」 内田成信

能「車僧 」
シテ  :狩野了一
ワキ  :大日方寛
アイ  :山本則秀
笛    :小野寺竜一
小鼓  : 鵜澤洋太郎
大鼓  : 安福光雄
太鼓  :小寺真佐人
地頭  :香川靖嗣
後見  :粟谷辰三

祝言

(※12月20日 十四世喜多六平太記念能楽堂


二泊三日の研修の帰途、そのまま目黒に直行~!(←注・日曜日です)
翌日以降も仕事を控えたハードスケジュールだったのですが、どうしても気分を切り替えたくて
能楽堂に電話したら まだ席が残っているというので、「花筐」から観てきました。
小ぶりな見所は補助席も出るほどの盛況。それでも運よく中正面の、まあまあの席をゲット。

「花筐 」
番組表を見たら、三代共演の舞台だったのですね。おシテはさぞ嬉しかったことでしょう。
これもツレが(銕仙会の谷本健吾とは違った意味で)かなりがんばっていた舞台で、若々しくしっかりとした謡で前場を引っ張っていました。
真州&健吾コンビが 女主人と、自らも狂女となる侍女の運命共同体的関係ならば、
匡一&敬一郎コンビは狂気の世界にこもる女主人と、それをしっかり支える侍女といった趣。
シテの謡が細く、ところどころ不明瞭だっただけに、なおさらそう見えたのかもしれませんが。
花筐を叩き落とされてから李夫人の曲舞にいたる場面の地謡は、ひたすら重く粘りつくような謡で、ねっとりとした情念を感じさせる。今まで喜多流地謡というと、むしろ切れ味爽やかで若々しいイメージがあっただけにちょっと意外でした。
まあ、「花筐=アンチロマン説」派の私としては、案外こっちのほうが近いんじゃないかという気もします。照日前と大跡部皇子の関係は、男が皇位継承者に指名された時点ですでに終わっており、天皇が照日前を再びお召しになったのは決して愛情からではなく、越前に雌伏していた頃の生き証人を封印するためだったのではないか・・・と思えてならない。
帝の一行とともに照日前が上京する場面の演出も観世とは違っていました。観世ではツレはさっさと退場してしまい、シテだけが一の松の前で一人舞う演出。喜多ではシテは舞台で舞い、ツレはシテが舞い終わるのを待って後に続く・・・というもの。忠実で冷静で、この後宮中でどんな境遇になろうと、この侍女は照日前を守っていくんだろうなあ・・・。そんなことまで想像させてしまうツレでした。

「車僧」
この曲がかかると、ああ暮れだなあ~と実感します。
牛も牽かない破れ車に乗って説法しているところから「車僧」と呼ばれている高僧を、魔道に引き込んでやろうと法論を仕掛けて敗れ去る愛宕山の天狗のオハナシです。
全体的に平均年齢の若い、というかアラフォー中心の舞台。ワキ(車僧)もいつもワキツレでお見かけする方で、たいへん堂々とした名乗りで登場。
そこへ車僧を誘惑すべく、若く美しい山伏姿で現れるシテ(天狗)。え、「車僧」はそんな話じゃないですって?ん~少なくとも今日はそういうオハナシだったみたい。。。
「お前誰だ?」というシテの問いかけに、「カラッポで涼しいのォ~」と人を食った答えで応じる車僧。う~ん、これは手ごわいかも・・・と注意深く車僧の前に回りこみながら、なおも法論を仕掛けるシテは、決まり事なんか知らない私の眼にも身体能力と技量の高さは一目瞭然で、バレエのパントマイムを思わせる しなやかな所作から眼が離せない!この方の謡は、中音域のどちらかというとやわらかい声質だけど、芯がすっと通った聴きやすい謡です。この曲の前場は禅問答みたいなワケわかんないやりとりが続いて退屈なのですが、今日はあっというまに中入。
山本東次郎家のアイ(小天狗)は、滑稽な中にもどこか典雅な(?)雰囲気があって私の好み。
則重は残念ながら見逃しちゃったけど、則秀の小天狗もいかにも「子分」って感じでかわいらしかったです♪
そして、天狗の本性をあらわした後シテ登場。装束は宝生流とほぼ同じ、赤頭にベシミをかけ、黒地に金の雲版文様が入った狩衣、赤い大口姿です。最近の若手としては大柄な方ではないものの、型がゆったりとしているので見ごたえがあるし、「あるべき姿」というかポイントをきわめて的確にとらえていた、といった印象。大地を穿つような鋭い足拍子、羽団扇&打杖攻撃を仕掛けるときの 弓のようにしなやかで強靭な所作。
この年代ならではの清新な美しさと充実感あふれる、三日間のカンヅメ研修で澱んだ頭と心が洗われるような舞台でした。今年最後のお能がこの舞台でよかった!
やがて、車僧との死闘に敗れた天狗は、やまねこを魔道に引き込んで愛宕山に飛び去って行ったのでした・・・(以上、「新説・車僧」)