「評伝 観世榮夫」(船木拓生/平凡社)

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きのうの午後、神保町で人に会う約束があったのですが、
待ち合わせ時間より早く着いてしまい、ふと思いついて能楽堂に電話。
会はない日だけど事務所は開いているというので、某公演の前売券を買ってきました。
希望の区画の席も残りわずかでしたが買えてラッキー。思い立ったが吉日!ですね♪

それでもまだ時間があったので、古本屋をふらふらハシゴ~♪
古本好きの間では、神保町の古本屋は手が入りすぎてて本も高い、とよく言われますが
ジャンル別に特化した小さな古本屋さんが密集していて、下町の古書街の雰囲気は健在です。

この日はロシア専門書店「ナウカ・ジャパン」、建築専門書店「南海書店」、
そして路地奥の民家の二階にある伝統芸能関連の古本屋さんに行ってきました。
その某書店で見つけた本のうち一冊がこれ。

「評伝・観世榮夫」(船木拓生著・平凡社

あの突然の死の年に、自伝と前後して出版された本なので まだ新刊で買えますが・・・。
私がこの本を手にしたら、お店のオジサンが
「ああ観世榮夫さんねー。あの人、最後まで全力で走り続けた人だったね」
と話しかけてきたので、すかさず
「ご兄弟してそういう人たちだったみたいですね。寿夫さんの著作集はありませんか?」
と聞いたのですが、こちらは時々入るけどすぐ売れちゃうのだそう。残念!

と、前置きは長くなりましたが この「評伝」、読み出したら止まらない。
戦後の能楽史・演劇史に興味のある方には「華から幽へ 観世榮夫自伝」とあわせてオススメの一冊かも(まだ読みかけですが)。

観世流の名家・銕之丞家に生まれながら、「『表現の媒介としての身体』を作るメソッドに魅力を感じて」喜多流に転向。さらに多様な表現を求めて能楽協会を離籍して60年代演劇運動の先頭に立ち、演出家・俳優として活躍した後、70年代末に20年ぶりに能に復帰した観世榮夫。
2007年5月に中央自動車道で事故を起こして同乗していたマネージャー・荻原達子さんが死亡、
その一ヵ月後に傘寿を前に癌で亡くなった記事は記憶に新しい方も多いかと思います。
当時の私は能に興味を持つ少し前で、例によって おさわがせ能楽師とかドタキャン宗家のたぐいが「やっちゃった」のかと思っていたのですが(^_^;A、今思えば、もう一年早く能に開眼していたら、観世榮夫の舞台も目にしていたかもしれない・・・。そう思うと、ちょっと残念ではあるのです。

「自伝」も「評伝」も もともと傘寿の節目に出版する企画が進められていたそうで、
聞き書きスタイルの「自伝」が、榮夫のストレートで断定的な<口調>を通して 戦後の復興期~高度経済成長期に活躍した舞台人の熱い想いがダイレクトに伝わってくるのに対して、
「評伝」は、観世三兄弟が生まれる前の銕之丞家の歴史、能楽界・演劇界の「前史」にもページを割いている分、観世榮夫という「異端の能楽師」の人物を歴史的な視座の中でとらえようとしている、ようです。(著者は「山本安英の会」の事務局にいた方だそうです)。

読みどころは やはり夭逝した兄・寿夫との関係。
瀕死の病床にある寿夫が、榮夫がアイルランドに長期出張している間に彼が能楽界に復帰できるように各方面に働きかけ、帰国した弟に「お前のことは方々から承諾をもらっているから安心しろ」と言った翌日そのまま意識不明になって・・・というエピソードとか、とにかく彼らの人生そのものがドラマチックです。
能と演劇で活躍する場は違っても、本質を追求するために「死ぬまで恐ろしいほどの自己更新を繰り返した(寿夫)」「全力で走り続けた(榮夫)」という点では、やはり同じ血の流れる兄弟なんだなあ・・・。


そういえば、今年は観世寿夫の三十三回忌で別会もあるそうです。
NHKでも特番放送しないかなあ・・・。