能面&装束展をハシゴ!②「能の雅・狂言の妙」(サントリー美術館)

イメージ 1

ハシゴ2軒目のサントリー美術館「能の雅(エレガンス)、狂言の妙(エスプリ)」

この企画展は、国立能楽堂開場25周年を記念して、国立が四半世紀かけて収集してきたコレクションを一堂に披露する、初めての展示とのこと。去年の年明けから島根、静岡、奈良、新潟、名古屋、山形を巡回してきた本企画は、東京での展示が最終となります。
しかも、今回は加賀前田家伝来の能装束11領も初公開されるとあって、これは見逃せません。

ミッドタウン3階の展示室に入ると、能面たちがお出迎え。
能面は室町時代名工が続出したことで、早い時期にその真髄を極めてしまったため、現代に至るまで面打ち師たちの仕事はオリジナルを忠実に写し取ることだという。戦乱や震災などでオリジナルが失われてしまっても、優れた写しが遺されることもあったそうです。

イメージ 2イメージ 3

上の写真は左が「泣増」、右が「小喝食」(ともに17世紀)。
他にも印象に残った面は数あれど、面食いの私はまず このふたつをセレクト♪
こうして並べてみると、男と女の「性」が不可分というか、美男美女とはほんのひと匙の異性性を内に併せ持つものだ、という美意識が感じられます。修復を重ねているとはいえ、400年前の面とは思えないくらい肌の質感や毛書きが生きているような美しい面でした。
あと、宝生宗家伝来の「二十余」(「藤戸」後シテの専用面)写しも、理不尽な殺され方をした若者の無念の表情を写したもので凄みがありましたが、あまりにもリアルで掲載は断念・・・ご興味のある方は、ミッドタウンまでいらしてください。

イメージ 4

装束コーナーは能装束好きな私にはまさに垂涎の空間で、薄暗い展示室に歳月を経て冷え寂びた花々が静かに浮かび上がっているのに目を奪われました。一領一領に詳しい解説がついているので、装束を観るだけであっというまに時間がたってしまいます。
写真は加賀前田家の「紅地白鷺太藺模様縫箔」 安政五年(1858年)。前田家の能装束は畳紙に詳細な記録が残されており、いつ・どのような状況で作られたものかわかるのだそうです。
この縫箔は第13代藩主齊泰が有卦(陰陽道ですべてが順調にいく時期)の祝いに、第14代藩主慶寧から贈られたもの。霞は銀箔、白鷺と水辺の草と流水は刺繍という、大変贅沢で凝ったもの。とにかく刺繍の技術の凄いこと、往時の大名家の勢いのほどがうかがわれます。

イメージ 5
このての企画だと、能がメインで狂言はほんのカタチだけ・・・というパターンが多いのですが、「狂言エスプリ」というだけあって狂言コーナーにも力を入れており、面や装束の意匠に能と狂言のアプローチの違いが見えて面白かったです。
写真は重習「釣狐」の専用面・「白蔵主」。猟師に仲間たちを次々と殺されて絶体絶命の狐が、猟師の伯父に化けて狐を狩らないよう説得する前場に使われます。口と頬は完全な獣、上目遣いで警戒心を表しており、追い詰められた狐の内面に迫ろうとする面打ち師の執念が感じられる逸品です。

能楽の絵画・文献コーナーは、専門家にも興味深いのではと思われる内容。
宝生宗家所蔵の宝生流装束付」、「弘化勧進能絵巻」写し(オリジナルは焼失)などから、当時能がどのように上演されていたか垣間見ることができます。なぜか宝生宗家所蔵品の写しがやたらとあったのですが、あまり目する機会のない資料ではないかと思います。
その他にも海外から買い戻した「百万絵巻」(室町~桃山時代には、能楽の最初の頃の、庶民の生命力も感じさせた時代の姿が生き生きと描かれています。
ミュージアムショップで「絵本」も売っていたので、今度買おうかな~。

全体を通して質量ともにレベルの高い展示であり、能楽は総合芸術なのだと実感できる充実の内容でした。図録も装束・面の用語解説はもちろん、刊本を中心とした諸流儀の謡本の流れも図説で紹介しており、これで2,200円は安いよ。根津には根津のよさがありますが、能楽ヲタクな方ならサントリーをオススメいたします。
もともと社中・流儀の枠を越えた能楽普及を目的として開場した国立能楽堂ですが、この優れた芸術を「過去の遺産」にしないためにも、演者(職人含む)・観客双方の後進の育成に、国はもっと力を入れるべきではないかと思います。(←きりっ)

イメージ 6


鑑賞の後は、併設のカフェ「加賀麩 不室屋」の加賀棒茶でリフレッシュ。
「不室屋」さんは金沢の麩の老舗で、お茶うけの麩は蜜が絡めてあるらしく ほんのりした甘みとラスクのような食感が楽しめますよ。
7月7日からは展示入替となりますが、後期も観に行ってきます!