普段着の本屋と中村好文の本

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仕事帰りに、地元の書店に立ち寄ることが多い。
商店街の入り口にあるそのお店は、いわゆる「町の本屋さん」サイズながら
岩波書店晶文社など人文学系出版社の希少本や児童文学・詩集のフェアを行ったり
新刊書や文化系雑誌のセレクトもなかなかなので、お家にまっすぐ帰りたくない気分の晩、
誘蛾灯に引き寄せられるガのごとく、ふらふら~~っと入って(そして買って)しまいます。
紀伊国屋書店ブックファーストなどのメガ書店でも買うけど、一店あたりの購入冊数では、
もしかしたら、ここ(仮にキノコノクニヤ書店(笑)としておきます)の方が多いかも。
こういう小さな本屋さんは、限られた棚に「売れる本・雑誌」「本好きの目を惹く本」を
常にバランスよく入れて、棚を動かしていかなければならないのだけど、
それにはたゆまぬ情報収集とコミュニケーション能力が問われるんじゃないでしょうか。
ボクは本が好きなんです、というだけでは本屋の店主はつとまらない。
(ついでに平凡社の希少本フェアもやってくれないかな~営業さん、売り込みに来てネ♪)

この「住まいの風景」(中村好文/ラトルズ)も、キノコノクニヤで買った本。
住宅街の本屋というロケーションのせいか、安藤忠雄隈研吾はあまり出ない代わり、
中村好文やルイス・バラガンの建築本は何冊も置いてあったりする。店主の趣味?
まあ、仕事帰りに手に取るなら後者でしょうね。
アンドウやクマの作品が、よそゆきのおべべ着て背筋を伸ばして入るような公共建築なら
中村好文は、お気に入りの部屋着でぬくぬくしたくなるようなタイプの住宅建築家ですね。

「住まいの風景」は、中村好文設計の美術館「as it is」のコレクション展に出展された、
「建築家の身のまわりに集まってきたもの」を再構成した本。
ページを開いた瞬間、巣穴のようなやわらかな温もりを感じて、買ってしまいました。
「as it is」の玄関、居間、書斎、寝室、和室の各コーナーを丁寧にフォーカスした写真は
建築家と生活をともにしてきたモノたちの持つぬくもりだけでなく、
フレームの外の、写っていないはずの室内の光や空気も伝わってくるようなテクスチャー。
特に印象的なのは、製図台と折りたたみ式の文机が置かれたシンプルな書斎。
文机を木製の段の上に設置することで、建築家としての仕事と物書きとしての仕事スペースを分け、
文机の前に、部屋で唯一の、土蔵にあるような小さな格子窓を開けているのが心憎い。
この空間、どこかで見たな~と思ったら、バラガン邸の「おこもり書斎」に似てるんです。
修道院の書写室のようにストイックでいながら、適度に開かれた空間感覚がいいなあ。
そのときの気分で好きなページを開いて、幻のおうちでくつろいでおります(笑)


そうそう、今日は雑誌を立ち読みしていたら、ぶぅ~んという羽音とともに大きな蛾が
私の隣にいたオジサンの胸に止まったのですが、その時オジサンすこしも騒がず(笑)、
お目当てのページをゆっくり読んだ後、お店の外に出て蛾を逃がしてやっていました。
私だったら絶対「きゃあ~~~っ」と叫んで雑誌を落っことしていたと思いますが(←蛾よりウルサイ)、
蛾を脅かさないように人のいない場所でそっと逃がしてあげた優しさが、ちょっとステキでした。