銕仙会 九月公演

「井筒」

シテ観世 清和
ワキ宝生  閑
アイ
山本泰太郎
  一噌 仙幸
小鼓  幸 清次郎
大鼓  國川  純
地頭  浅見 真州

 
「茫々頭」
シテ   山本 東次郎
アド   山本 則重
 
「菊慈童」

シテ  観世 淳夫
ワキ御厨 誠吾
ワキツレ大日方 寛
    則久 英志
  一噌 隆之
小鼓  亀井 俊一
大鼓  亀井  実
太鼓  観世 元伯
地頭  山本 順之

 
(※9月9日(金) 宝生能楽堂
 
 
いよいよ秋のお能シーズン開幕♪
この日の銕仙会は、家元の「井筒」と銕之丞家のNextお世継ぎ・敦夫くんの舞台とあって、見所は大入り満員。
 
「井筒」
この日の井筒の作り物は、向かって右側にススキを立てる演出。今までに見た井筒(観世1回・宝生2回)は、向かって左側にススキを立てていたように記憶しています。
三役も仙幸さん・閑さんが大変すばらしく、特に閑さんは この日はすこ~し高めの謡い出しで情緒纏綿というか流れるような美しさ。去年の「西行桜」(シテ:野村四郎)もそうだけど、とにかくワキの第一声が舞台の世界をつくり出すのだな、と実感。
 
シテは決まりの紅白段の、秋の花々を織り出した美しい唐織姿。家元はバランスのとれた体型なので、こういう三番目物で唐織姿の美しさが引き立ちます。面はパンフレットによると「相生増」だそうですが、どちらかというと孫次郎に通じる艶麗さを感じさせる美しい女性の貌。橋掛かりに現れたときからシテの美意識と気合いがビシビシと見所に伝わってきます。わりと高めの声質のせいか、特に高めに声を張った時に金属的な響きが混じり、美しいがやや気性のはっきりした女性といった印象。片田舎で愛する人をひたすら待ち続ける女というよりは、たとえば「花筺」のほうがしっくりきそうな気がする。閑さんとのやりとりも愛し愛された物語を語っているうちに、次第に感情が昂ってきて、狂気と紙一重のような興奮と陶酔に。その意味で、この「相生増」のチョイスは正解だったと思う。閑さんもシテを受けて、静かだけどつややかな謡で応じていたような。中入り後の待ち謡もしみじみと心に染み入るようなすばらしさで、もし私が閑さんより先に死んだら、閑さんにお経代わりにこの待ち謡を謡っていただきたいくらいである。
 
後場も中入り間際のテンションの高さで登場したシテは、定番の紫の長絹に真紅の縫箔姿。初冠が、人妻のつややかさを一層引き立てるような男の装いである。
序の舞も陶酔を呼びおこすような優雅さで、ハマる人にはたまらない魅力なんだろうと思う。やがて、感情がきわまって井戸に小走りに駆け寄ったシテは、じっと水面をのぞきこみ、体を井戸から引き離すように、静かに上体を起こしながら「見ればなつかしや 我ながらなつかしや」と詠嘆する。
(この場面、たとえば観世寿夫は息を詰めるようにして水面をじぃ・・・っと見つめながら「・・・見ればなつかしや」と体の奥から湧いてくるような低い声でつぶやいていたのだけど、シテによって本当に印象が変わるんですね~)
 
気になるススキも別に左右の違いも気にならなかったけど、右か左かで何か演出効果の違いが出るのでしょうか?シテが左利きだと向かって右とか・・・。
 
 
「茫々頭」
東次郎の「語り芸」が光る一番。茫々頭に菊を挿していたら、野遊びの上臈に逆ナンパされちゃって・・・という話なので、この後の「菊慈童」に引っ掛けたのでしょうか。
それにしても、久しぶりに見た則重はダイエット中なのか、ちょっとだけスリム&凛々しくなってましたネ重々しい謡も東次郎の語り(最後に下世話なオチがつく)と対照的で可笑しさを引き出していて、よかったです。
 
 
「菊慈童」
この日の公演は やまねこは前正面最後尾の席に座っていたのですが、お囃子があしらい始めたころ、宝生能楽堂の二重扉(行った人にはわかるネタ)がす~っと開いて、着物姿の束髪の女性が横に立ったのだけど、ただならぬ緊張感を発したまま、席につかずに通路に立ったままなのでチラ見したら・・・やっぱり・・・井上八千代だったのでした~
だからかどうか、引き回しを降ろして現れたシテはとっても緊張していて、謡の固さが気になりました。小柄なシテは、オレンジ色の法被を片袖脱ぎにして、昔の応接間でよく目にした木目込人形の慈童のよう。紅白の菊の咲き乱れる中で慈童が舞うと、外は残暑でもやはり一気に秋の気分になるのでした。
作り物の背後では、主後見の銕之丞が囃子方を押しのけんばかりの勢いで、目をぎょろりと見開いてシテをじぃぃっと凝視しておりました・・・(お囃子もさぞかしやりづらかっただろうな~)。一方、見所最後尾の応援席も不動
こ~なると舞台よりも主後見と応援席の方が気になってしまい、後半でシテの足拍子が遅れたときは、なんだか私まで運動会の応援席にいるような気分に。まさに手に汗握る一番でした。家の子ともなると大変ですね・・・次世代の銕仙会のためにも頑張ってね、と能楽堂を後にした やまねこでした。