境界

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この単なる小さな石が、
大きな抑制力をもたらすサインとなるには、
サインに気付けるだけの「良識」を持ち合わせていることが、
受け取る側に求められる。
                          ―隈研吾「境界」
 
畠山記念館の庭で見つけた、関守石(せきもりいし)。
茶室の飛び石や延段の岐路に据えられる、縄で十文字に結んである小石で、
「これより先はご遠慮ください」という暗黙の印。
関守石は、同じ文化圏に属する人間同士の「暗黙の了解」を前提として、認識に抑制力を働かせる「区切り」に見立てられるのだ、と隈健吾は明晰に解説している。
 
かつて、小さな石ひとつで「外」と「内」が分けられていた この庭園は、その意味を知らない人たちも訪れるようになり、札が掛けられるようになった。
庭園の区切りより先に、「暗黙の了解」という日本人の内なる<境界>が崩れ始めているのだ。
 
 
畠山記念館を出て、庭園美術館(旧朝香宮邸)のある目黒通りを目指して歩く。
 
 
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住宅街の細い路地を抜けると、突然、古い祠を要とした三叉路が現れる。
横尾忠則のY字路シリーズに似ている…というよりは、昔の街道のような雰囲気。
 
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祠に一か所だけ開けられていた窓から、内部を覗く。
一瞬、道祖神??と思ったものの、僧形に造られているのでどうやらお地蔵様らしい(道祖神は石そのままの形で、男女一対に見立てたものが多い)
もっとも、時代が下るにつれて、辻・路傍の神である道祖神地蔵菩薩が習合して、日本全国の路傍で石の地蔵が作られたというから、似たような性質を持っているのかもしれないけど。
 
後で調べたところ(趣味:調べることww)、この付近は明治期には東京で最初の食肉処理場があった場所だという。江戸期に島津家の別邸があった場所から、ほんの1ブロックほどしか隔てていない区画である。
元禄年間に建てられたというこの地蔵尊も、土地の「境界」を分ける役割を担っていたのだろうか。