「春日の風景」(根津美術館)
開館70周年を記念して、根津をはじめ、東博、奈良国立博物館、湯木美術館、能満院、奈良県南市町自治会所蔵の「春日宮曼荼羅」27点が一堂に会するというこの企画展、会期が一か月間と短かったのですが、ぎりぎりセーフで鑑賞できました。
参道が金で描かれ、参詣する人々の姿も描きこまれた曼荼羅は縦2m近い大判。
曼荼羅図の展示コーナーの中央には、鎌倉時代に春日大社で使われていたという「瑠璃燈篭」も展示されていました。ビーズ状の瑠璃(青ガラス)を連ねて側面に張りめぐらせた漆塗りの燈篭は、内側から発光するようライティングされています。
昔訪れた、夕暮れ時の春日大社の回廊の記憶に、無数の瑠璃燈篭が青い光をたたえて揺らめいている光景を想像しただけで・・・神経がさわさわと鳴り出すような気がします。
最近修復が終わったばかりで顔料が鮮やかですが、描かれた当時は古色蒼然としていないですからね~。神鏡を奪還するための血で血を洗う争いや、夢のお告げを得て子孫繁栄のために庭に竹を植える話が、いかにも中世の空気を伝えてきます。
そして春日とくれば、やっぱり鹿さんですが、春日のモチーフとして鹿が取り上げられるようになったのは室町時代以降からだそうです。へ~鹿さん登場は意外と最近(???)なんですね。
わらに江戸時代に角倉素庵が出版した嵯峨本「伊勢物語絵巻」に描かれた鹿は、「春日=鹿」のイメージを普及させたのだそう。
神々のおわします神聖な地・春日は、鹿が戯れる美しくのどかな野でもあるという両義的なイメージを持つようになっていきます。
「春日龍神」は、唐に渡ろうとする明恵上人を「わざわざ遠くまで行かなくても、仏の功徳ならここでも観れるよ」と春日明神が引き止めるお話ですが、命がけで唐に渡らなくても、釈迦の誕生、霊鷲山での説法、入滅の様を次々と眼前に再現して見せてくれるなんて、なんて太っ腹、じゃなかった懐の広い神様なんでしょう。
点数は決して多くないものの、そんな春日の聖地の持つおおらかな魅力が伝わってくるような展示でした。