「モニーク・フリードマン展」「サイレント・エコー コレクション展Ⅱ」(金沢21世紀美術館)

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またまた行ってきました、21美。
2011年内の最終営業日(?)が12月28日、金沢は珍しく終日傘のいらない、清々しい冬晴れ。
抜けるような青空と雪のコントラストの中に建つ、透明な美しさ。
 
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最初の写真からほぼ90℃移動した地点にて。
右手奥にチラッと写っているのはオラファー・エリアソンの恒久展示「カラー・アクティヴィティ・ハウス」。
どの位置から見ても絵になるというか表情のある建物は、そうそうない気がする。
 
21美のハコだけで記事が完結しそうですが、この日の企画展は以下の3つ。
 
「モニーク・フリードマン展」
「押忍!手芸部と豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』」
「サイレント・エコー コレクション展Ⅱ」
 
今回の見どころ(←やまねこ的には)は、なんといってもモニーク・フリードマン
フランスを代表する女性作家の一人、モニーク・フリードマンは、絵画制作を中心にとらえ、色と光の表現をカンヴァス、顔料、パステル、布、紐、紙などの素材を使って表現しています。
この記事をUPするにあたって、webで作品の参考画像を探したのですが、
あの日21美の白く明るい空間で目にした、色と光を充分に伝えきれるとは思えず、
そうした画像を載せることで、私自身の得た感動が色褪せてしまうのではないかと思い、今回画像はなし!
・・・と思ったのですが、それも記事のジャンル上あんまりなので、1点だけ新作のインスタレーションをご紹介。
 
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モニーク・フリードマンカレイド・スコープ」(2011)。
 
21美の展示空間との対話から生まれた新作インスタレーションです。
万華鏡を回すことで視覚の小宇宙が生まれるように、この「カレイド・スコープ」も人がその色と光の通路の中を歩くことで、刻々とその表情を変えていき、完成します。
恒久展示「緑の橋」(パトリック・ブラン)と「雲を測る男」(ヤン・ファーブル)とも違和感なく調和してますね。
 
しかし、圧巻は展示室11およびその入口。
丸い迷路のような展示ゾーンを回ると、壁面を彩るアブサント」に目を奪われます。
北国の凍てつく青空の下、やわらかな緑、黄色、ピンクの光あふれるカンヴァスの中は一面の春。
具象画では全くないのに、確かにそこには春の野辺の草、タンポポが咲き乱れ、川面の輝きまでが見える。
展示室11「季節-ボナールとともに」シリーズ、「輝き」シリーズ、「ナージュの婦人たちⅡ」の配置も絶妙で、麻布を張ったカンヴァスにパステルや顔料で着色した画面は、本当にやわらかく発光しているような、そしてその色が光が、忘れかけていた記憶を静かに揺さぶり、かなり長時間ベンチに掛けて見とれていました。
母の鏡台の口紅をこっそり塗った幼い日、某メゾンでシルクのドレスに思わず手を触れた日の「アマランス」。
初冬の昼下がり、老朽化した図書館のコンクリートの壁に凍りついた雪のきらめきの「グレー」。
・・・この調子で書き続けると、深層心理を不特定多数にさらけ出しそうなので自主規制(笑)。
 
 
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一方、「コレクション展Ⅱ」も良くも悪くもそれなりにインパクトがあり、
やまねこは初めて粟津潔「ピアノ炎上」(1972)を観ました。
そう、山下洋輔が燃えさかるグランドピアノを演奏する様子を収めた、あの有名な映像作品です。
万一の事故を考えたのか、山下洋輔は一応消防士が被るようなヘルメット・フードを着用しているんだけど、火炎がかなりの高さになって顔前に迫っているのに、むしろピアノに顔をくっつけるようにして演奏、いや鍵盤を叩きつけていて、あんなに中が燃えていて銅線が焼け切れているはずなのにピアノって音が出るものなのかと最初は感心していたのですが、そのうちだんだん本来の音が出なくなり、洋輔がしまいには殴りつけるようにして叩き出される音が、なにやら断末魔の叫びのように聴えてきて、あまりのむごたらしさに目耳を背けたくなった。
一時でも自分の楽器を手にして音楽に親しんだ者には、ああいうパフォーマンスは老いた踊り子に火をつけて死ぬまで躍らせるような仕打ちに見えてしまい、どこがゲイジュツなのかよくわかりませんでした。
 
で、別の意味でインパクトが強かった作品は、カプーア「白い闇」角永和夫「シルク」の2点。
カプーアといえば、白い壁に穿たれた巨大な女陰の、どこまで広がっているかわからないような深い闇を表現した恒久展示「世界の起源」と毎回にらめっこしてしまう(実際には1mほどの深さの穴の内側を濃紺で塗りこめて、闇の深さを表現しているそうだけど、とてもそうは見えません)。
「白い闇」は、いわば「世界の起源」の真っ白バージョン。穴のエッジが極度に鋭い上に、塗料(?)の色と塗り方の技術が高度なために、穴の実際の深さがわかりづらい。小さいのに!近くで見てるのに!!なんでだよ?!
 
角永和夫「シルク」は、天井高さのある展示室いっぱいに真っ白い帆のようなものが吊るされていて、よく見るとそれは、カイコの吐いた糸が張り巡らされたネットなのだった。展示室の一角に制作過程の映像が流されていて、相当数の人員を使って一日に数回ネットを動かすことで糸を吐くカイコの向きを人為的に調整して、巨大な「帆」を形成したそうだ。
ちょうど近くにいたスタッフの方に、「それにしても相当な時間とコストがかかったでしょうね」と話しかけたら、
「いえ、この展示室を閉めて制作しましたが、日数はそれほどかかっていませんよ」との答え。
「え?この展示室って、たしか夏に塩田千春さんのインスタレーションがあったはずですが、いつですか?」
と重ねて突っ込んだところ、その方は「制作期間わかりますよ」と手帳を出すではないですか!
「えーと、8月30日まで夏の展示があって、その後すぐ制作に入って9月17日にこのコレクション展スタートですから、実質2週間程度です」
「ええ~っ、そんな短期間でできるものなんですか。それにしても生き物相手の作品で工程が狂ったら大変なことになりますよね。すごいなあ」
 
21美のスタッフさん(ボランティアスタッフの方が多い)の説明は、先のカプーアの恒久展示も含め、的確かつ踏み込みすぎない絶妙な距離感がいいですね。やまねこなんか、調子に乗ってつい同行者にペラペラしゃべってしまいそう・・・。反省。。こういった鑑賞(もしくは教育)の場において、単なるウンチクに終わらず興味を持たせる説明のあり方、というものについても考えさせられました。
 
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タレルの部屋
 
凍てつくような寒さだからこそ、どこまでも透きとおるような青。