杉本博司「ハダカから被服へ」(原美術館)

イメージ 1
 
暮れに21美のモニーク・フリードマン展に行って以来の美術館詣でです。
 
イメージ 2
 
やまねこ、原美術館に足を運ぶのは初めてですが、和光や国立博物館本館で知られる渡辺仁が設計した戦前の瀟洒な邸宅に、杉本博司の作品が不思議に調和した空間を楽しんできました。
何年か前の やなぎみわ「フェアリーテール」展は残念ながら見逃しましたが、杉本博司といい、やなぎみわといい、物語性の強い作品があの空間にはマッチするんじゃないかと思います。
 
受付のすぐ横(ギリギリ無料ゾーン?)では、いきなり「ポートレートシリーズ」の、「ヘンリー8世と6人の妻たち」のフォトフレームと、グッゲインハイムでの展示に合わせて制作された「ジェーン・シーモアの首飾り」がお出迎え。おお、最初っから『真を写す』写真を反転させて虚構の世界に引き込む仕掛けですな~、とワクワク。
展示コーナーの前半は、杉本ファンにはおなじみの「ジオラマシリーズ」を、人間と衣服の関わりの歴史というテーマで再構成することで、衣服の持つ心理的、文化的な意味の変容をたどっていくいうもの。
ジオラマシリーズの他にも、茶室の掛け軸として表具を施されたジャック・ゴーティエ・ダゴディの「背筋図」も必見。21美の「歴史の歴史」でも展示されていましたが、切り開かれた背中が天使の羽のように拡げられた姿の解剖図を、血の色と深い草色の表具で装った掛け軸を茶室に掛けたら、エロティックな茶会になるでしょうね(笑)。
 
装いは服だけではない。私の表情、私の仕草、私の眼の翳り、それらは自動的にあなたの着るものと連動している。あなたの意志とは係わりなく、あなたの着る服が、あなたの表情を決める。あなたは、あなたの服の気持ちになる。顔というあなたの仮面は、あなたの服に最もふさわしい仮面を選ぶ。
 
杉本博司にとってはオブジェクトだけでなく解説の「ことば」もまた作品なのだろう。
ヨコハマトリエンナーレでは、あの長い解説や動線が全体の展示の流れを乱していて、私には作家の自己撞着にしか見えなかったけど、今回の原ではきちんと企画・構成がなされていたと思います。なにしろ都内では7年ぶりの展示だし。
 
後半の「近代 被服のブランド化」が、今回の展示の中心テーマ。もとは放牧された牛の所有者を識別するために、牛の尻に押された焼印を意味する「ブランド」。第1次大戦で男性が少なくなった状況下で、それまでは性欲がないとすら見做されていた女性の社会進出が進むことで、フェミニズムの流れが加速し、イヴサンローランやシャネルなどのメゾンに見られる服飾文化が栄えます。
 
今やブランドは牛の尻ではなく、女性の尻をも熱くすることとなった。
 
スキャパレリ、シャネル、マウリツィオ・ガランテ、川久保玲などのファッションの写真、一見服飾文化史の展示のようだけど、なんというかハダカ以上に「肉体」を感じさせる写真なんですよね。全身が生殖器そのもののような、いそぎんちゃくのようなチューブでびっしり覆われたガランテのミニドレス。しなやかな体の下に、避けられぬ老いの皺を透かし見せてしまう三宅一生のプリーツ・プリーズ。衣服というものが、人間の肉体と欲望と不可分なものであることを実感させられます。
 
イメージ 3
 
さらに、ヨコハマトリエンナーレで上演され、杉本が装束のデザインを手がけた能楽「神秘域(かみひそみいき)」で野村萬斎が着用した「雷紋」の直垂や、演出を手掛けた文楽「杉本文楽曾根崎心中付けたり観音廻り」の文楽人形の装束も展示。
野村萬斎の直垂は、鮮やかな藍色の地に放電図が白抜きで染め抜かれたとっても個性的なもの。高々と烏飛びをこなす長身の萬斎なら、こういう強烈な装束似合うでしょうね~。当日(9月21日)は関東地方を襲った台風が吹き荒れ、会場に辿り着けなかった方々もいたとか…。放電図の装束が雷神となって風神を招きよせてしまったのでしょうか?
 
イメージ 4
 
今回の図録は、草紙っぽいつくりになっていて、タイトルも「秘すれば花」。
なかなか洒脱な感じがします。お値段もお手頃です(笑)。
 
イメージ 5
 
そして、原といえば 一度ぜひ行ってみたかった「カフェ・ダール」。
内装に関しては、正直いって「まあ、普通」でした。。意外とシンプルというか。
店の見た目「だけ」なら、庭園美術館の今は亡き「K田中sasha」だけど、あそこは接客が史上最低レベルだった。。あそこで何度余韻をぶち壊されたことか。雑誌のランキングなんかあてにしちゃいけません。あ、ついK田中のワルクチを。
 
イメージ 6
 
さてさて、原の名物(?)「イメージケーキ」をオーダー。
ここのカフェは、会期中限定で展示テーマに沿ったデザートを出しています。
運ばれてきたのは、なにやら固焼きクレープ(?)に覆われたムースらしきもの。。
 
イメージ 7
 
で、クレープのヴェールを上げてみると・・・あいや~~!!
衣服と不可分の肉体が御開帳(笑)。
なんか「アマデウス」で、サリエリがコンスタンツェとクスクス笑いながら、こんなカタチのお菓子を食べる場面を思い出しちゃいました。
ここのお客の8割はカップルで、その内7割がイメージケーキを注文していたけど、
みんなほぼ同時にビミョ~な表情してましたね~(^_^;A 特に男性の反応が。。
ハダカの正体はピンクのチョコレートを乗せた白桃のムースで、中は白桃のシロップ漬けでした。
平日の夕方にはシャンパンを楽しめるメニューもあるとか。気の合う(できれば感性の合う)女友達か恋人と、ニヤリとしながらおしゃべりを楽しみたい場所ですね。
 
というわけで、コンパクトな空間に欲望とウィットがてんこ盛りの楽しい企画でした。
会期は7月までなので、お見逃しなく♪