代々木果迢会四月例会「白楽天」
小謡 浅見真高
仕舞
箙 武田友志
東北 浅見滋一
小鍜治 小早川康充
能「白楽天」
シテ 小早川修
ツレ 小早川泰輝
ワキ 殿田謙吉
ワキツレ 則久英志 大日向寛
アイ 野村万蔵
笛 藤田次郎
小鼓 森澤勇司
大鼓 國川純
太鼓 助川治
地頭 浅見滋一
主後見 藤波重彦
(※4月27日(金) 代々木能舞台)
半年ぶりの代々木果迢会。
今回は、先月の謡音読会で読んだばかりの「白楽天」。そしてなんともタイムリーにも、先週から銕仙会のすぐご近所の根津美術館で開催中の「KORIN展」で、この謡曲「白楽天」を題材にした「白楽天屏風図」も観てきましたよん♪そういえば、去年11月の銕仙会で小早川さんが「春日龍神」のシテをつとめられた時も、根津で「春日の風景」展示期間中で、能と日本美術で同一テーマを楽しんできたのでした。
小謡に続く若手の仕舞・・・は、今回は30代半ばの若手&14歳の超若手(笑)。
康充くんはこの半年でまた背が伸びて、年齢的には声変りを迎えているはずなのに透る声のまま、少しずつ低くしっかりした謡になってきた。すくすく成長を続けているのがわかる、子狐ちゃんでした。
「白楽天」。
この曲は囃子がちょっと変わっていて(?)、ワキの名乗りまでは笛と小鼓のみで奏されていて、水平線の向こうに陸の影が少しずつ見えてくる・・・という雰囲気だった。小鼓の森澤勇司はまだ若いけれど手堅い技量ときれいな手の持ち主で、しっかりした骨格の手元から、鋭く、また柔らかく櫂の音が繰り出されていく。
殿田謙吉の白楽天は見るからに中国人というか、詩人というよりバイタリティあふれる官吏という雰囲気(笑)。ま、日本人の知恵を探る=あわよくば唐の支配下に・・・というミッションを帯びて渡航してくるくらいだから当然かも。
そこへ小舟に乗った漁師の親子・・・ツレの泰輝くんが橋掛かりに現れた瞬間、お父さんが若返ったかと思うくらい瓜二つでびっくり。シテ&ツレの謡い出しもまったく同じ声で息もぴったり。
シテ(日)は「にほん」、ワキ(中)は「にっぽん」と発音し分けているだけで、それぞれ自国語で会話しているのが突っ込みどころなんだけど、能の前場って、さりげなーくワキと見所を異界に引き込む伏線を張っているから、実はこの時点で白楽天はアナザーワールドに足を踏み込んでいたのかもしれない。
白楽天の詠んだ漢詩を漁翁(住吉明神)は和歌に換骨奪胎して、白楽天をタジタジとさせる。シテは卑しい漁夫の姿をしているものの、自信と威厳をもって和歌を詠み上げ、すでに住吉明神の姿が透けてみえているのでした。漁翁が次第に白楽天を心理的に追い込んでいく緊張感が、微妙な謡の変化でじわじわ伝わってくる。やはり予習は大切なのね。前場って、いわば物語を煮詰めていく要の部分なのかも。・・・のだけど、後見の方、鬘のチェックもちゃんとしてほしいのよさ(←ピノコ風)。
アイの万蔵(住吉明神の末社の神)も適役で、いかにも「ここで笑わせてやろう」的なケレンのない、飄々とした可笑しみが自然に笑いを誘う感じでよかった。殿田謙吉を一目見て「おや、思うていたより美々しい」というところでウケてました(笑)。
後シテは、白垂に「皺尉」をもうちょっと強くした感じの哲学者のような風貌の面をかけて、表は金・裏が濃い紫の地に、光の加減で若竹色にも紫にも見える六角星のような文様を織り出した狩衣、濃い草色の大口姿。いくぶん重々しく威厳に満ちたハコビで橋掛かりを静かに進んでくる。暮れの「求塚」の透きとおるように儚く可憐な乙女と同じシテが、今は輪郭の強い重厚な住吉明神の姿で、すぐ目の前に立っている。この場面、シテ一人で舞いながら神々の群舞と神風を表現しているというので、「春日龍神」のようなスピーディーな舞かと思っていたら、実際にはもっとゆっくりで重厚な舞だった。
この方の型と謡、雰囲気の綺麗さは、私の好きな「綺麗」の姿なんだな~と思う。いつ観ても。
翻す袖から神風が沸き起こり、鋭い足拍子に波頭が砕け散る。かくして白楽天は日本に一歩も上陸することなく、大陸に押し戻されたのでした・・・。