再会!辻邦生「十二の肖像画による十二の物語」

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このブログの所期の記事で取り上げた、辻邦生「風の琴」(文春文庫)のもとになった
短編集「十二の肖像画による十二の物語」の初版本を、偶然立ち寄った古本屋で見つけました♪
「風の琴」には肖像画シリーズに加えて「十二の風景画への十二の旅」も入っているのですが、
短編小説としては肖像画シリーズのほうが緊張感のある展開で、構成もまとまっていると思います。
 
あ~単行本だと、こんな大きな紙面で肖像画を観ながら辻邦生の世界を楽しめるのね!
辻邦生の中で一番好きな短編集なので、見つけた時は忘れられない人と再会したような気分でした。
しかも、表紙は私の好きなポライウォーロ「婦人の肖像」。
古本屋に行くと、つくづく昔の出版社は本作りにお金と手間と情熱を注いでいたんだなあと実感します。
 
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ダ・ヴィンチ「美しきフェロニエール」からインスピレーションを得て書かれた「狂(ものぐるい)」。
霧の朝に出会った謎の美女を一目見て、運命的な恋に落ちた青年は
彼女を追って霧深き森の奥にある古城へ向かう。
恋に狂った青年の運命は・・・
 
最近になって、この「フェロニエール」は贋作ではないかという説が有力らしいけど
それでもダ・ヴィンチ描く、理知と妖しさのあいまった女性の美しさをここまでとらえた力量はすごいし、
青年を狂わせたチェチリアの絶望と狂気の物語が生命を失うものではないと思う。
 
それにしても、高貴な身分のモデルから、その奥に秘められた弱さ、傲慢さ、残酷さ、潔さを鋭く抽出し
外見を多少水増ししつつも内面を描き出した、画家の目と筆の冷徹さにあらためて気づかされる。
特にレンブラントの「黄金の兜の男」なんて、画家も作家も実に仮借ない筆致で描いています。
秋には日本に来るという「黄金の兜の男」、実物をこの眼で視るのがとても楽しみです。