「ドビュッシー 音楽と美術-印象派と象徴派のあいだで」展(ブリヂストン美術館)

 19世紀末~20世紀初頭のフランスを代表する作曲家クロード・ドビュッシーをテーマに、同時代の印象派や象徴派の芸術家たちの作品を紹介する「ドビュッシー展」に行ってきました。
 この美術展は、フランスのオランジュリー美術館とブリヂストン美術館の共同企画によるもので、オルセー・オランジュリー・ブリヂストンのコレクションをメインに、「音楽と美術の競演」ともいうべきユニークな企画です。
 
 
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(公式HPより)
 
 展示室に一歩足を踏み入れて最初に目に飛び込んでくるのは、鮮やかなマリンブルーの壁面。この演出が、ドビュッシーの音楽や展示作品のイメージと実によくマッチングしていて、センスの良さを感じさせました。
 そうそう、この美術展に関しては音声ガイドは「ほぼ必須」といっていいです。作品解説のBGMは、ドビュッシー自身のピアノ演奏による「ペレアスとメリザンド」、ラフマニノフのピアノによる「子供の領分」など。美術展公式アルバムCDもフランス近代音楽の演奏史ともいうべきレベルの高い内容で、やまねこ、即決で購入しました
 
展示会の構成は以下の通り。
 第1章:ドビュッシー、音楽と美術
 第2章:《選ばれし乙女》の時代
 第3章:美術愛好家との交流-ルロール、ショーソン、フォンテーヌ
 第4章:アール・ヌーヴォージャポニスム
 第5章:古代への回帰
 第6章:《ペレアスとメリザンド
 第7章:《聖セバスチャンの殉教》《遊戯》
 第8章:美術と文学と音楽の親和性
 第9章:霊感源としての自然-ノクターン、海景、風景
 第10章:新しい世界
 
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モーリス・ドニ「木々の下の人の行列」(1893年 オルセー美術館
 
 全体を通して一番印象深かったのは、ドビュッシーの友人モーリス・ドニの作品。
 この絵、抽象化された木立や人々の姿といい、色彩といい、どこか幻想的。
 
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モーリス・ドニ「ミューズたち」(1893年 オルセー美術館
 
 「木々の下の人の行列」と同じ年に制作された作品。こうして続けて見ると、女性の姿態の曲線にアール・ヌーボーの匂いを感じますね。
 
 
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ルノワール「ピアノに向かうイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロール」
(1897年 オランジュリー美術館)
 
 美術展ポスターに採用されたルノワールの作品。ピアノに向かう若い女性たちは、ドビュッシーの友人でありパトロンでもあった美術愛好家ルロールの令嬢、イヴォンヌとクリスティーヌ。当時、ピアノは富裕層のステイタス・シンボルであり幸福な市民生活の象徴でもあったそうです。彼女たちの背後にドガの絵が2点掛けられていることから、ルノワールとルロール家の親密な関係がうかがわれる作品です。
 ピアノを弾いている姉イヴォンヌは当時の芸術家たちのミューズ的存在で、ドビュッシーも彼女を自作の歌劇「ペレアストメリザンド」のヒロイン・メリザンドにちなんで「メリザンドの妹」と呼んで憧れていたようです。この絵の他にもドニが描いたイヴォンヌのロマンティックな肖像画が展示されていました。・・・が、やまねこの好みではクリスティーヌの方がすっきりした美人だと思うんだけどなあ~。男性から見た美人の基準は違うんでしょうか?
 
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エミール・ガレ「たまり水」(1889‐1890年 オルセー美術館
 
 この時代、日本の浮世絵や工芸品の海外輸出・流出により、フランスではジャポニズム(日本趣味)が流行します。アール・ヌーボーを代表するガラス工芸家・ガレの作品は厚ぼったくてゴテゴテしていて正直、やまねこの好みではないのだけど。。夕闇の迫るたまり水に集まった虫たちの姿をとらえた「たまり水」は、虫たちの羽を透かした深い青がきれいで、いろんな角度からガラスを透かして見入ってしまいました。
 
 
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葛飾北斎富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(1831-1834年
 
 
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ドビュッシー交響詩『海-3つの交響的スケッチ』のスコア」(1905年個人蔵)
 
 もちろん、ドビュッシージャポニスムに夢中になった一人で、書斎には浮世絵のコレクションを掛け、交響詩「海」のスコア(オーケストラ用楽譜)の表紙には、北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」にインスパイアされた日本風の波の絵を取り入れています。スコアの波は、北斎のオリジナルからさらにデザイン性を強めに出した感じで、波頭のタッチが北斎というよりモネの「嵐のベリール」に近いのが面白い。
 
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カミーユ・クローデル「ワルツ」(1893-1895年 アルフレッド・ブーシェ美術館)
 
 北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」に夢中になった芸術家の一人、カミーユ・クローデルもまた「波」という作品を残しています。
 ドビュッシーと彼女は1890年頃に親しく交流しており、音楽に乗って陶然と踊る男女の姿をとらえた「ワルツ」を、ドビュッシーは短い交際が終わった後もずっと書斎に置いていたそうです。映画「カミーユ・クローデル」では、ロダンと別れた後のカミーユドビュッシーが恋愛めいた感情を抱き合うものの、ロダンを忘れられないカミーユは年下の作曲家と別れてしまい、若き日の二人の思い出を刻んだ彫刻だけが残される・・・というようなエピソードがあったな~。悲しい。。
 
 
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マネ「浜辺にて」(1873年 オルセー美術館
 
 オルセー美術館のコレクションを代表する(といってもいい)マネの作品。
 この絵の前に立った時、長~いバカンスに倦んでいるような雰囲気、あ~今年の夏も終わりだなあ~とちょっともの悲しい空気が立ち込めていたような。。やまねこの夏休みももう終わり(涙)。
 この絵の額縁がえらく凝っていて、黒と赤のフラットな漆塗りのようなモダンなもの。図録やネットの画像では額縁がトリミングされてしまっている場合が多いけど、美術展通いも場数を踏んでくると、額縁と中身のマリアージュというかコーデイネートを観察するのも楽しかったりするんだよね。
 
 この他にも、歌劇「ペレアスとメリザンド」の舞台衣装や舞台装置のデザイン画が展示されているコーナーがなかなか興味深かったです。やまねこは岩波文庫ペレアスとメリザンド」(←絶版。古本屋で手に入れた)を持っているのですが、当時の書籍の挿画が岩波版とまったく同じなので、オリジナルの挿画の彩色を網膜にじーーっと焼き付けてきました。
 最終章のブリヂストン所蔵のカンディンスキーやクレーとドビュッシーの関連性ウンヌンは正直いって、かなりこじつけっぽい気がしたけど、「おぉ、これも石橋コレクションだったのか」と思うような作品が何点かあって、なかなかよかった。
 父は美術館を出てから「良心的な美術館だね~」とコメントしておりました(笑)。
 
 
 実は、このドビュッシー展には2回行ってきました。1回目は疲れていて常設展はスルーに近い状態だったので、今回は絶対「ブリヂストンの猫(←古代エジプト彫刻の「聖猫」のこと)に会うゾ!」と楽しみにしていたのだけど、ナント、猫は企画展の間は夏休み中 次回はフリーダイヤルでご確認の上いらしてくださいませ、とのこと。美術館の人も、ドビュッシー展で「猫いませんか」と聞いてくる ヘンな人(←やまねこ)にはさぞかしアッチョンブリケだっただろーなーと思ったことでした。。