フランソワ・トリュフォー「華氏451度」

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 もう10年ぶりくらいでトリュフォーの「華氏451度」を観ました。密林でDVD買って。
好きな映画に関してはTSUTAYAに2度も出向いて一週間以内で観なくちゃいけない
というコスト(手間ヒマ)が煩わしくて購入しています。
幸い、やまねこが好きなジャンル(文芸・芸術モノ)は廉価盤DVDが出ているので
買っちゃったほうが「安い」ケースが多いです。
 
 「華氏451度」は、先日亡くなったSF作家レイ・ブラッドベリの代表作で、ヌーヴェルヴァーグ(1950年代末にフランスで起きた映画運動)の旗手フランソワ・トリュフォー監督によるイギリス映画(撮影場所もイギリス)。
 1966年制作当時の「近未来」のイメージのせいか、現在観ると「昔の未来」ともいうべきレトロちっくなモチーフがかえって新鮮に映ります。
 
 
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 徹底した思想管理体制のもと、書物を読むことが禁じられた近未来の社会。禁止されている書物の捜索と焼却を任務とする消防士(原作では焚書官)モンターグ。
 直線的なデザインの消防車に、急カーブでも直立不動を崩さない消防士たち。
消防署の扉に記された「451」の文字は、華氏451度(紙が燃え出す温度)の意味。
 
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 模範的な市民であり職場でも順調に出世街道を走っていたモンターグ(オスカー・ウェルナー)は、妻リンダと瓜二つな本好きの女性クラリスジュリー・クリスティ一人二役)と偶然出会ったことで、精神的な豊かさにふれ、本の存在を意識し始める。
 
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 この映画できわだって魅力的だったのが、思想統制化の社会で日がな一日テレビに向かって洗脳状態の妻リンダと、本を愛する感受性の強いクラリスという正反対の女性を演じ分けるジュリー・クリスティ。たしか「どクトル・ジバゴ」撮影前後の頃で、女優としてもっとも旬な時期の魅力が伝わってきます。
 イギリス映画といえど、やはりトリュフォー作品のヒロインで、ジュリー・クリスティもフレンチ・ガーリースタイルのファッションがすてき。この映画を観て、「Pコートにミニスカート」「ブラウン×ブルーのカラーコーディネイト」に目覚めましたね~。
 
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 そんなある日、匿名の通報で踏み込んだ「秘密図書館」で、消防士の警告にも動じず、焚書のために積み上げられた本に自ら火を放って自殺する老婦人の姿を前に、モンターグの中で何かが変わり始める。密かに本を持ちだすモンターグ。
やがて、彼は活字の持つ魔力の虜になっていく・・・。
 燃えさかる炎の中で、本と運命を共にする女性の表情は鬼気迫るものが。
 
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 しかし、そんなモンターグを待っていたのは妻リンダの冷酷な裏切りだった。
 いかにも思想管理下の社会らしい、蜂の巣のように整然とした無個性な住宅地。
 
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 吊り下げ式のモノレールも、いかにも「昔の未来」っぽいレトロな感じ。
60年代のヨーロッパでは実際に運行していたのでしょうか。一度乗ってみたいです。
 
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 追い詰められて上司を殺害してしまったモンターグが逃げ込んだ森は、本を暗記することで自ら「本」になった人々・Book Peopleの住むコミュニティ。ひとたび本を記憶してしまえば、もう誰にも奪うことはできないのだ。そこでクラリスと再会した彼もまた、生ける「本」となって雪の降る森をさまようのだった・・・。
 
 ブラッドベリの原作では、クラリスは登場してすぐに姿を消す(消されてしまったらしい)のだけど、感受性豊かで生命力あふれる少女と年上の男との短い交流がより印象的な一方で、当時の文明批判や思想色が強くて中盤からは読みづらくなった感が
あります。トリュフォーは原作のテーマはおさえつつも、随所に本への愛情がにじみ出ていて、まさに本好き必見の映画です。
特に、クラリスと再会したモンターグが、本の人の群れとともに雪の降る森をさまようラストシーンは詩的な美しさです。
私も本の好きな人に再びめぐり会えたら、こんな森の中をさまよってみたいです。
  
 ラスト近くでほんの一瞬、日本語の暗誦が聞こえるけど、何の本だったのだろう?
 死期の迫った老人が幼い甥に本を口伝で残し、命をかけて守った本の内容そのままに、初雪の降るころ死を迎える場面や、雪の降る森を歩き回る「本の人」の群れは、いつか訪れる春への希望を感じさせます。
やっぱりヨーロッパ、それもフランスの映画はいいなあ~。