右斜め45度のヴァージニア・ウルフ

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 書斎で本を読む父を見て育ったせいだろうか。大人になったら自分の書斎を持つのが夢だった。ダークブラウンの大きな机にエメラルドグリーンのバンカーズライトを置いて、夜が更けるにまかせて緑のランプの灯の下で本を広げたり書きものをする大人に憧れた。
 しかし、一人暮らしのアパートはベッドと本棚に小さなコタツテーブルを置くのが精一杯な狭さで、机などは望むべくもなかった。そのかわり、沿線の老舗喫茶店の片隅の席が素敵な「書斎」の役割を引き受けてくれた。アンティークのシェードランプやタイプライターに囲まれて、私は書斎気分を満喫できた。この幸せな関係は十数年もの長きにもおよんだ。
 結婚して移り住んだ2LDKのマンションの、2つ目の部屋は北向きの日当たりの悪い部屋で、当初は夫婦の書庫兼物置としてほとんど足を踏み入れることもなかった。大量の段ボールを開梱してすぐに新婚旅行先のロンドンに発ったほどの慌しい日々だったこともある。
 ロンドンのフォートナム&メイソンでアフタヌーンティーを楽しんだ後、F&Mに隣接する老舗書店HATCHARDSでSakiの短編集を買って、ふとレジ前に置いてあるペーパーブックと目が合った。Virginia Woolfの「A Room of One's Own」。表紙に記された一節こそ、このブログタイトル下の英文である。

A Woman must have money and a room of her own if she
is to write.

本文中のこのくだりの訳は
「女性が小説なり詩なり書こうとするなら、年に500ポンドの収入とドアに鍵のかかる部屋を持つ必要がある」

 そうだそうだ、結婚しても(だからこそ)女性は物心両面で自立していないと!
 やっぱり書斎が必要だ!!

 …というわけで、書斎案には夫も乗ってきたこともあって、帰国後私たちは段階的に、肌触りのいいラグ、ライティングデスクセットを無印やハンズで買い揃えていった。バンカーズライトは、独身時代に設置場所を無視して衝動買いしたまま仕舞い込んでいた物がようやく陽の目を浴びた(笑)
 手頃ななりに厳選した甲斐あって、写真だけ見ればそれらしい雰囲気が出ているでしょう?そう、冒頭の画像は我が家の書斎ですよ!借りものじゃありませんよ!日当たりの悪さも、書斎に必須の「おこもり感」を醸し出すにはむしろよかったかも(笑)
鍵どころか自分だけの部屋ですらないところが、LONDONならぬTOKYOの住宅事情のなせるところだけど、これはもうしょうがない。

 ただし、この風景、机に向かって右を向いたとき限定。
左側(写真に写っていない手前側)に目を向けてはいけません。夫のスーツやワイシャツが吊るされたハンガーが目に入って、一気に現実に引き戻される。
 そう、私は右斜め45度のヴァージニア・ウルフなのである。