「歴史に現代の響きを聴く」-18世紀におけるオーボエと鍵盤楽器の変遷-

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成城学園創立100周年成城大学文芸学部公開レクチャーコンサート


「歴史に現代の響きを聴く」18世紀におけるオーボエ鍵盤楽器の変遷-


三宮正満(オーボエ


平井千絵(フォルテピアノ


重岡麻衣(チェンバロ


アンサンブル・ヴィンサント(管弦楽


赤塚健太郎(コーディネーター・文芸学部准教授)
 


J.S.バッハ



オーボエダモーレ協奏曲イ長調BWV1055


チェンバロ協奏曲ニ短調BWV1059



ピアノ協奏曲第9KV271


オーボエ協奏曲ハ長調KV314
 


(※平成281029日(土)成城大学7号館007教室

 この季節、コンサートホールや能楽堂もいいですが、意外と穴場なのが大学主催のイベント。特に創立○周年を控えたタイミングとうまく重なると、魅力的な企画が無料もしくは超良心的な入場料で楽しめます。ちなみにこのレクチャーコンサートは入場無料。

 オリジナル楽器のレクチャーコンサートは、十年以上前に有田正広フラウト・トラヴェルソ)のコンサートに通っていて以来で、オーボエは初めて。メインゲストの三宮氏はバッハ・コレギウム・ジャパンBCJ)の首席オーボエ奏者で、有田氏とはちょうど親子ほどの世代差。最初にステージ手前の机にいろんな素材や形のオーボエをズラーッと並べて、最初にモダン楽器をさらうレクチャースタイルが懐かしい(笑)。オーボエなら最初にチャルメラ吹いちゃうのもお約束ですね。
 モダンタイプとオーボエ・ダモーレくらいしか知らない私には、オーボエの先祖がオスマン・トルコ軍の先頭で吹き鳴らされてたなんて初めて知りました。スコットランドバグパイプと同じ役割ですね。勇壮で(バグパイプ奏者は戦死する確率が高かった)、戦意を鼓舞する楽器だけあってとんでもない音量です。演奏用に改良されたものでも、そのままの音量では弦楽器とは合わせられないため、管の厚みを薄くしたりして改良を加えていったのだそう。このへんはフルートと全然違う(フルートはむしろ音量を上げていく方向に改良している)。
 コンサートでは、ホルン(角笛)形のオーボエ・ダ・カッチャも演奏したのですが、正直、視覚的効果の方が大きいというか楽器としてはそれほど印象に残る音ではありませんでした。 

 プログラムの中でも特によかったのは、モーツァルトのピアノ協奏曲。チェンバロを聴いた直後なだけに、チェンバロ(弦をはじく奏法)→フォルテピアノ(弦を打つ奏法)への変化がわかりやすく、ピアノのフットペダルがないということが、これだけ音量のグラデーションの幅の制約につながるとは思わなかった。
演奏者の平井さんがおっしゃっていた弱音の幅、そして残響がほとんどないので、大きなホールには向かない音量です。
 ニ短調のコンチェルトは演奏頻度も高いから、無意識にピアノでの演奏と比較して聴いてしまう(そこが狙いの選曲なのかも)けど、フットペダルを使ったムード音楽的な二楽章のイメージがガラッと変わりました。音量の幅も残響も狭いだけにもっと、肉声のような演奏、音の「間」に意識を集中させられるというか。ふんわり、ひらひらしたのがモーツァルトではないのだと。

 最後のハ長調オーボエ協奏曲は、調を変えただけでほぼニ長調のフルート協奏曲。これもフルートとの表現の違いを聴き比べできて楽しい演奏でした。三宮さんの演奏は明るく華やかで、音が気持ちいいくらいのびやか。
 モダンオーボエの演奏者の中には妙に官能的な演奏する人もいるけど(笑)、私はこういうケレンのない演奏の方が好きです。即売会のCDは買わずに帰りましたが、むしろコンサートを聴きに行きたいと思いました。

   今回のこの企画、コンサート自体のクオリティと、出演者(ざっと10人はいた)のギャラ、楽器の搬送費用、調律師の人件費も考えると、無料で参加できるのは大学ならでは。客席の1/3くらいは在校生のようだったけど、土日も出勤することがある身としては、(いろいろな意味で)時間がたっぷりある彼らが本当にうらやましい。
 大学は、在学中よりもむしろ卒業してそれなりに社会人経験を積んでからの方が、その価値がわかる場所。日本にもドイツのようなサバティカル制度があれば、一年間休職(ただし無給)して、ガッツリ勉強し直したいなあと思います。