デトロイト美術館展
帰省する前に上野駅のコインロッカーに荷物預けてふらりと立ち寄るにはちょうどいいボリュームでした。
展示構成もわかりやすい。
第1章 印象派
第2章 ポスト印象派
第3章 20世紀のドイツ絵画
第4章 20世紀のフランス絵画
ぱっと見た印象では、この企画では20世紀フランス絵画に力を入れていたようです。
今回は音声ガイド(ナレーションは鈴木京香)を使って、絵を観る前に解説を読まないようにしてみました。目から入った方が、絵のタッチの変遷なんかわかりやすいですよ。
鈴木京香はナレーションに慣れていないのか、語り口がやや硬い感じ。プライベートでは草間彌生などの現代アートのコレクターでもあり、いい仕事をしている女優さんで私は好きなんですが、鈴木京香でもやはり緊張するのかな。
ドガ「楽屋の踊り子たち」(1879年頃)
ドガは暗くて退廃的な感じがしてあまり好きではない画家だったのですが、この絵は横長の画面を最大限に活用して、楽屋の空間に観る者を引き込むような感じがします。
手前でトゥシューズを調整している踊り子と、画面右奥で稽古中の踊り子たちという2つの空間と時間が、ジグザグの構図によって臨場感が巧みに表現されていて、今にも稽古の掛け声が聴こえてきそう。
ゴッホ「オワーズ川の岸辺、オーヴェールにて」(1890年)
ゴッホの最晩年というか、精神疾患によるピストル自殺をする3週間前に描き上げられた作品だそうです。チューブから絞り出した絵具を直にキャンバスに塗りつけたような荒々しいタッチ。木々のとげとげしさ、川面の水の冷たさを感じさせ、観ていて情緒不安定になりそうな「刺さってくる」絵です。
好き嫌いは別にして、こういう観る者を刺してくるような絵を死の直前に描ける画力は凄い…と圧倒されます。
このブログで定期的にアクセスがある隠れ人気記事(?)が、ココシュカの「アルマ・マーラーの肖像」の記事。今ならストーカー犯罪になりそうな狂気の愛の物語ですが、ココシュカの厚く塗り重ねた絵具の質感と、色彩感覚は独特の魅力があります。この絵は第1次世界大戦から帰還して描かれているので、例の人形事件のただ中だった頃でしょうか。
20世紀ドイツの絵画コーナーは、他にもナチスに「退廃芸術」として排斥され亡命を余儀なくされた画家の作品も展示されていたけど、どうもこの時代のドイツ絵画って即物的な感じがして、やまねこ的にはいまいちピンとこなかったです。
マテイス「窓」(1916)
簡略化された線と色彩ながら、ベランダのカーテンを揺らす初夏の光と風が肌に感じられそうな表現力。実物の色合いはもっと明るく、ペパーミントと忘れな草色の透明色がきれいで、女性受けしそう。
マティスのクッキリした線って、やはり切り絵のものだなあ。線で画面の色彩を区切る描き方ってビュフェにも通じますね。
日本人が20世紀フランス絵画が好きなのは、19世紀末~20世紀フランスの芸術家が版画(浮世絵)にインスパイアされて制作した作品を、日本が「逆輸入」しているからかもしれないな、なんて思ったりもしました。
モディリアーニ「男の肖像」(1916)
(※画像はInternet Museumから引用)
「モヂリアニの作品は、長いこと私を翻弄した。実際それは困つた程だつた」と松本竣介に言わしめたモディリアーニは3点出展。極東の若い画家を捕えたであろう、黒くくっきりとした線。紺色がかった深みのある灰色、画面左上の赤みがかった紫が画面を引き締めて目を惹きつけます。抽象化されているのに、モデルの個性をとらえた特徴的な線が印象的です。
私は「女」よりこの「男の肖像」が気に入りました。
モディリアーニ「女の肖像」(1917-20年頃)
ジャンヌ・エビュテルヌと出会ったころに描かれた作品。
個人的にはモデルはジャンヌじゃないと思うんだけど…。
上の「男」と比べると、モディリアーニがモデルによってちゃんと線描を描き分けていたのがわかりやすい展示ですね。
そして色彩対比が効果的ですごくきれい。最近、グレーニュアンスに惹かれているせいか、この絵の背景のグレーがかったブルーとグリーンに見とれました。そのまま赤銅色の髪、ミルクと薔薇の肌に視線が吸い寄せられていくような、色彩の求心力を感じます。
エコール・ド・パリの芸術家は好きだけど、その中でもモディリアーニは別格だと思う。
ピカソ「読書する女性」(1938年)
モデルはピカソの恋人で、写真家のドラ・マール。
読書に没頭する彼女の姿を、いろいろな角度から見た印象を一つの画面にぎゅっと凝縮した絵。ドラがどんなに魅力的な女性だったのか、この絵を観たらわかるような気がしますね。
冒頭にも書いたように、海外の美術館展はセレクトショップ的な見せ方をするので、広く浅く入って自分の好みを見つけるのにいいと思います。
あと、大まかでもいいので好きな画家の生没年や○○派の活躍した年代を覚えておくと、美術史と世界史の「横のつながり」に気づけたりもします。
2017年もいろいろ観に行こうっと♪