グルダ/「即興曲集・楽興の時」(東芝EMI)

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昔、父の書斎にあったこのCDを帰京時に「これ、借りてっていい?」と
父に聞いたら「いいよ、あげる」ともらったCD。
次に実家に帰ってみたら、書斎に2枚目のCDが置いてありました・・・。
 
ウィーン生まれのピアニスト・作曲家のフリードリヒ・グルダ(1930-2000)最晩年の録音で、死の前年に自宅のスタジオで収録された盤。
自作の「ゴロウィンの森の物語」も含め、軽快さと洒脱さの中にもどこかメランコリックなニュアンスの漂う演奏を一回聴いただけであっというまに惹きこまれ、今でも無性に聴きたくなる一枚です。
 
 
ちょっと前、悲しいことがありました。
今までに経験したことのなかった悲しみ・・・。
一番つらい最初の一週間をようやく乗りきって、平日休みの日に路面電車の駅を見下ろすコーヒーショップで文庫本を読むでもなくぼんやりしていたら、突然、グルダの弾く「楽興の時」の4番が頭の中をぐるぐる回り始めて。
彼の率直であたたかなタッチで奏でられる、幻想的でメランコリックな主部と、つかの間の明るさを持つ中間部からなるモデラート。幻の音に思わず寄りかかって窓の外に目をやったら、いつのまにか櫛の歯のような夏の雨が降り出していました。
 
 
モーツァルトの澄みきった明るさの中に限りない悲しみを感じるように、この盤に収められた最晩年のグルダシューベルトやゴロウィンにも悲しみを突き抜けたような明るさが感じられます。
シュトラウスの「ウィーンの森の物語」のオマージュでもある「ゴロウィンの森の物語」は、シュトラウスだけでなくベートーヴェンの「悲愴」「運命」のモチーフも巧みに取り入れているのが面白い。ウィーン風の優雅で軽快なステップに乗っていたと思ったら、いつの間にか後半でジャズっぽいフレーズで一気にクライマックス・・・最後にピアノを弾きながら語りかけるように「おいらが死んだら、辻馬車に乗せてチターを弾いておくれ」と歌って終わります。ちょっとほろりとさせられる曲です。
 
グルダが亡くなったのは2000年1月27日。ウィーンをこよなく愛した彼の命日は、敬愛するモーツァルト生誕の日でもありました。