「Inner Voices -内なる声」金沢21世紀美術館2011①

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8月13日(土)から15日(月)まで 1年ぶりに金沢に行ってきました。
お盆まっただ中でどこも混んでるのはともかく、今回は珍しくヘビーな金沢旅行でした(←読みを間違えたともいう…)
越後湯沢発の「はくたか」は先日の大雨で、直前まで路線変更情報に振り回され、
ようやく金沢に着いたと思ったら、「金沢ゆめ街道」開催とも重なって市内の大動脈・武蔵が辻~香林坊間の交通規制にひっかかり…。土地勘のある私も少々の予定変更を余儀なくされたので、う~~次回はタイミングを考えよう…。
 
さて、金沢到着後、お昼ごはんを食べるや21美に直行。
入場券売り場は長蛇の列でしたが、意外と中は(一か所を除き)それほど混んでいなくて鑑賞にはほとんど問題ありませんでした。
今回は企画展として「イエツペ・ハイン360℃」と「Inner Voices -内なる声」の2つを同時開催。
1960年以降生まれのアジア・インドの女性作家たちによるグループ展「Inner Voices -内なる声」は、予想以上にインパクトが強かったです。パンフレットによるとこの企画は、経済成長とともにグローバル化の波を受けてきた1960年代以降に生まれた女性作家たちに注目し、生の困難さと可能性の両面を人間に見る、彼女たちのInner Voicesー内なる声に耳を傾ける展覧会です。彼女たちは通説的に「女性的」であることを示すイメージや価値に対して、あるいは差異によって起きることへの誤解や無理解を、対立や抵抗ではないかたちで乗り越えようとしています。というもの。
 
出展しているのは1965~1982年生まれのアーティストたち。社会的・文化的背景がわからないと「?」でスルーしてしまいそうな作品もありますが、21美は解説がわりと丁寧なので概要はつかめるようになっています。
特に面白かったのは、塩田千春、呉夏枝、キム・ソラの作品。
 
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 塩田千春「不在との対話」(2010)
1972年生まれの作者は、90年代後半からベルリンを拠点にヨーロッパで活躍しています。かつてあった物やオブジェを組み合わせ「不在」との対話を試みることをテーマにした作品や、皮膚を境にした身体の内と外を意識した作品を発表しています。
「不在との対話」は、「あいちトリエンナーレ2010」の出展作品。これが今回一番インパクト強かった作品です。
21美の高さ10メートル近い天井から巨大な白いドレスがつるされ、その表面は無数のチューブで覆われています。チューブの中は赤い液体が一定の速度で循環しており、心拍に合わせて蠕動する血管をイメージさせます。本来なら体を覆うドレスが血管をまとっているような、体の「内」と「外」の反転。そしてその血管の一本でも傷つけば、その瞬間に純白のドレスも、ドレスに向き合った人間も、吹き出す鮮血を浴びてしまうのではないかと思わせる不安感。(実際、チューブに近づきすぎるとスタッフから注意されます)
こんなむき出しの血管で覆われてる人には近づきたくないよと思いますが、作者によると、「血」こそが 国や人種を隔てる「壁」なのだそう。下は、同じテーマで制作された映像作品「The Wall」です。
 
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塩田千春「The Wall」
全身をチューブで覆われた全裸の女性。彼女の呼吸につれて、透明なチューブの中を赤い液体が流れ始めて・・・これも「この血管の一本でも切れたら生きていられないのではないか」と思わせる、身体的不安感をかきたてる作品です。
 
 
呉夏枝「あるものがたり」(2010)
http://www.youtube.com/watch?v=VeGBfGbomvs
           (YouTubeで音声と映像が鑑賞できます)
1976年生まれの作者は、在日韓国人3世として、自身の置かれている社会と状況に正面から取り組んできた作品を発表。糸や布を使って記憶や感情を織り、縫い、つなぎ合わせながら、自身の過去と未来を見据えた作品を制作しています。
「あるものがたり」は、長い麻紐の先端を繊維まで細かく解きほぐして日記の形にしたオブジェと、朗読による作品です。ガラスケースに展示された「日記」を鑑賞するには、ヘッドフォンを装着して、複数の女性(英語、日本語)が同時に朗読する日記を聴くというもの。
文章を読むときというのは、たとえ黙読するときでさえ、頭の中で「朗読する声」を聴いているものです。異なる言語の複数の女性たちの声が、繊維がより合わさるようにして「ものがたり」を形づくっているのが、ヘッドフォンを使うことで鑑賞者の「身体」に直に訴えかけてくるとともに、鑑賞者の「体」を枠(フレーム)にして鑑賞者自身の「ものがたり」をも喚起するようにも感じられる作品です。
 
キム・ソラ「時を食う時」
1965年にソウル(韓国)で生まれた作者は、各人固有の「時間」を「食」で表現した作品を発表。韓国にも日本と同様、「年を食う」という言い回しがあるそうですが、老人2人にインタビューを行い、その「食った年」をイメージしたレシピを制作するというユニークなもの。しかもそのレシピ2種のプリントは持ち帰ることができます。(私ももちろん持ち帰りましたが、内容はヒミツです)
さて、年を食ってきた二人の人生は、どのような味がするのでしょうか…?
 
塩田千春は、2009年の「愛についての100の物語」(http://blogs.yahoo.co.jp/yamaneko_ken93/55414065.htmlでも、窓枠を使った「記憶の部屋」を展示していました。いすれも目にした瞬間(解説を読む前に)、皮膚を通してありとあらゆる記憶や感情がビリビリと呼び起されるような、一度見たら忘れられない作品です。ミュージアムショップで、ヴェニスでの展覧会用に制作された大判の図録も売っていたけど、なんだか夢に出てきそうなので見送ってしまいました(笑) 21美で制作された「記憶の部屋」のDVDは興味があったけど。
 
イエツペ・ハインは、また改めて。