「すらすら読める風姿花伝」(林望)

お能関係のブログをチェックしていると、
謡や仕舞を習ったり能楽堂に通いつめたりしてる学生さんがいたりして、
つくづく羨ましいなー、と思います。
新しい世界を知るためだけに勉強する、ということがどんなに楽しいか、
本当にわかる頃には時間が取れなかったりするんですよね。

お勉強といえば、
前の会社に入ったばかりのころは、「勉強=スキルアップ=資格取得」
という考え方に縛られて、視野狭窄に陥っていましたが、
今はむしろ、経験値とヒューマンスキルの方が問われてる気がします。

すらすら読める風姿花伝」(林望著・講談社
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図書館で見つけたこの本、看板に偽りなし。
風姿花伝」なんて、一子相伝の秘伝の書、というイメージが強かったのですが、
そこはリンボウ先生、読みやすくまとめてあります。
リンボウ先生は若い頃から観世流で謡を習っているとのこと)
この本、原文は総ルビ、下段に現代訳がついているというもので、
本当にすらすら読みきってしまいました。
原文自体が読みやすかったのが意外!

それ以上に、
あの時代にこんな合理的精神の持ち主がいたのか、と驚かされます。
芸事だけじゃなくて、仕事とか人間の成長についてもぴったりあてはまる内容。
手元にあるので一部抜粋。

「わが風体の形木を窮めてこそ、あまねき風体をも知りたるにてあるべけれ」
(何事も自分の基礎をしっかり身につけてこそ、その先の応用的な広い工夫の
あれこれも知ることができるのである)

このくだりなんか、結構ドキッとさせられますね。
もっと意外だったのは、相伝についての記述。

「たとへ一子といふとも、不器量の者には伝ふべからず。
『家、家にあらず、次ぐをもて家とす。人、人にあらず、知るをもて人とす。』」
(たとえわが一子であっても、才能や人格の至らぬものには伝えてはいけない)

なんだか本田宗一郎松下幸之助のセリフみたいじゃない!
現代でも、これが実行できない企業の創業者がいかに大勢いることか。
(前の会社なんて、まさにそのパターン。付箋つけて社長室に送りたい(笑))
もっとも、世阿弥の場合は長男の元雅が才能ある人物だったそうですけど・・・。

巻末で、世阿弥の生涯が簡単に記述されているけれど、
義満亡き後の不遇時代や、八十近くなって佐渡に流されたなんて話、
初めて知りました。
恥ずかしながら、「美貌の稚児で、パトロン義満に引き立てられて・・・」
なんてエピソードしか知らなかったので、
だいぶイメージが変わりました。

日曜の月並能を観にいく前に読んでおいてよかったです。