「ルイス・バラガン邸をたずねる」


ルイス・バラガン(1902-1988年)はメキシコを代表する建築家です。
上品なピンクやオレンジを壁面に使った特徴的な住宅や庭園を多く設計したことで知られ、
また住宅開発を手がけるディベロッパーとしても成功しています。
今回展示されるルイス・バラガン邸は2004年に世界遺産に登録された住宅建築です。
(個人の住宅が世界遺産に登録されるのは、きわめて珍しいケースとのこと)

建築関係の企画展というと、たいてい模型やサンプル、映像中心の展示が多いのですが
今回の展示はワタリウムの中にルイス・バラガン邸の一部を再現しようというもの。
あの三角形の、床面積が決して広いとはいえないワタリウムでの再現、
しかも会場構成は金沢21美を設計した妹島和世西沢立衛/SANAAではないですか。
イギリスかどこかに「好奇心は猫を殺す」ということわざがあるらしいけど、
やまねこもそのクチですね~。

会場は2Fが書斎&庭に通じるリビング、3Fがダイニング、4Fが寝室という構成。
2Fでエレベーターを出てすぐ目の前が書棚で、なんだか個人のお宅におじゃましたような趣。
正直いって、バラガン邸の光と色彩感覚までコンクリート建築のワタリウムに再現するのは
無理があったという感じ。特に2Fと3Fの吹き抜けを利用したリビング(写真上)は、壁や窓のフレームに沿って視線が上に引かれていくと、どうしてもワタリウムの天井に突き当たってしまう。
再現コーナーと3Fの映像でイメージを統合させて、バラガン邸訪問を疑似体験してきたといったほうがいいかもしれません。

とはいえ、バラガン邸の「おこもり感」というか適度に閉ざされた空間は体感できたかも。
バラガンは閉ざされた空間と薄明かりが「居心地のよい空間」を生みだすと言って
見晴らしのよい大きな窓をふさいだり、可動式の間仕切りを閉ざしたりしたのだそう。
森の中にガラス張りのファンズワース邸を建てたローエが、依頼主の女友達から「こんな家じゃ暮らせない」と訴訟を起こされたエピソードをつい連想してしまいました。
住宅における「居心地のよさ」って、住人の身体との連続性というか一体感なのかもしれないね。
たとえば、主が家の中で一番長い時間を過ごしたであろう書斎。
190cm近いバラガンの体格に合わせた、どっしりと厚みのある中にもすっきり上品な書棚一体型の机と椅子、十字型に4つに分かれて開く雨戸がありましたが、雨戸は敬虔なカトリック信者であるバラガンのアイデンティティーを表すとともに、日差しの強いメキシコでの採光上の工夫も兼ねているのだそうです。
部屋そのものは決して広くない。でも確かに住む人の気配、体温が感じられる空間。
closeが「親密な、密接な」という意味をも持つ言葉であるということにも思いいたります。

ちょうどタイミングよく鑑賞ツアーに居合わせたのですが、ガイドの方の説明がわかりやすく
鑑賞者との距離感も適度で(説明が押しつけすぎてない)よかったです。
ワタリウムはいったん入場券を買うと会期中何度でも入れるし、いろんなワークショップもあって
時間が許せばもうちょっと通いたいんですけどね。
併設の輸入書籍・カードショップ「On Sundays」のカフェも本好きにはたまらない空間です。