宝生夜能会

更新が滞っていましたが、19日(水)、年内最後の観能に行ってきました。

●12月宝生夜能
  「絵馬」シテ 水上 輝和
  「柑子」シテ 野村 万之介
  「熊坂」シテ 山内 崇生
http://www.hosho.or.jp/nou/2007_12/yanou.html

以前の記事にも書きましたが、
5年前に金沢で初めて観たお能が「熊坂」でした。
中入り後のシテの足拍子とお囃子が、とても印象に残っていて、
5年たった今観たら、どんな風に見えるのか興味がありました。

先日の五雲会とは打って変わって、見所はほぼ5割程度の入り。
今回は前から2列目の正面席に座ってみました。
五雲会では脇正面だったけど、お囃子の響き方が全然違う。
お囃子を聴くなら、やっぱり前正面がベストポジションかも。

この日は「絵馬」が思いがけずよかった!
疲れも忘れて、非日常の世界へ・・・。
特に誰かが突出してよかったのではなく、全体的に調和の取れた舞台でした。
後シテの男神、ゴツいんだけど独特の美しさがあって惹き込まれました。

この「絵馬」のお囃子、本当に素晴らしいアンサンブルでした!
(笛:藤田次郎・小鼓:住駒充彦・大鼓:柿原光博・太鼓:助川治)
お調べが聴こえてきた時点で、「このお囃子は当たりかも」と思ったけど
藤田次郎さんの笛、澄んだ柔らかい音で、今まで聴いた笛方ではダントツでした。
特に間狂言の舞は、本当に気持ちよく入っていけた。鼓方三人も◎。
鼓方の掛け声は、好みがはっきり分かれてしまい、
小鼓の声がこもっていたり、大鼓が甲高い裏声で吠えるのはどうもダメなんだけど、
その点でもよかったなー。音も美しかった。
小鼓の方は、金沢の住駒さんのご親戚かな?住駒さんはこの方で3人目。

「絵馬」の舞台そのものは、
前半で翁が白い馬の絵馬、姥が黒い馬の絵馬を手にして現れたり、
後半で天岩戸にシテが隠れ、男女の神が舞うという「古事記」の引用を見ていて、
この曲の原型は結構原初的、というか土俗的なものだったんじゃないのかな、
という印象を受けました。舞台そのものは洗練されていたのですが。
豊穣を祈願するおめでたいイメージをちりばめた曲で、いまの時季にぴったり。
年明けの「翁」も楽しみです。

「柑子」
ミカンを盗み食いした太郎冠者が、例によって楽しい言い訳をする話。
万作さんの「主人」には、最初っからちゃんとわかっていた上で、
どんな言い訳をするんだか聞いてあげようじゃないの、という茶目っ気を感じました。
太郎冠者と主人の関係をどう見るかによって、「言い訳系」は解釈が変わってきそう。

「熊坂」
5年ぶりに見ましたが、後シテの暴れ方(?)ってこんなにアッサリしてたっけ??
金沢で観たときは、熊坂はいったん幕のあたりまで下がってちょっとおとなしくした後、
再び舞台の中央に躍り出てきて延々と長刀振り回してた記憶が・・・。演出が違うのかな?
まあ、5年もたてば記憶もいい加減なのかも・・・?
中入り後、間狂言が下がって後シテが登場する直前の、お囃子の緊迫感が
春の祭典」(ストラヴィンスキー)の「いけにえの踊り」の冒頭を連想させて、
今回もドキドキしました。
残念だったのは、後シテ登場後に 真後ろの席で携帯電話がしつっこく鳴っていたこと。
ちょうどチロリロ鳴った瞬間、シテが床机に掛けたままドン!と足拍子を鳴らしたので、
「そーだそーだ、いいぞ熊坂!」と心の中で叫んでしまいました。
あまりにもしつこかったので、
「柱杖にあらざる鉄の棒」で突いちゃおうかと思いましたけどね(笑)。