サンソン・フランソワEMI録音全集

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 ドビュッシー展の後、久しぶりにサンソン・フランソワのピアノが聴きたくなって、ネットを徘徊していて見つけたEMIのコレクション。
 
 
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 セットの中身。CDは薄い紙ケースに入っているので、思いのほかコンパクトです。
輸入盤とはいえ、36枚組セットのコレクションがなんと6000円以下で買えるなんて、すごい時代ですね~。高校時代に初めて買った、同じEMIのフランソワのラヴェル作品集のCDは3000円近くしたのだから、隔世の感があります。当時の私がこのセットを見たら、どんな顔をするだろうか。
 
 20世紀のフランスを代表する「鬼才」ピアニスト。アルフレッド・コルトーにその才能を見出され、19歳にして「遅すぎるデビュー」を飾ったピアノの詩人は、感性が極端に突出した個性的な演奏スタイルで知られています。このてのタイプはレパートリーもかなり偏っていて、主にショパンドビュッシーラヴェルを得意とし、ベートーヴェンは嫌いだと断言。お酒と女性、そしてジャズを愛した根っからの芸術家肌のフランソワにとって、戦後という時代は暮らしづらかったのか、次第にアルコールに溺れるようになり、ドビュッシー全集の録音中に46歳の若さにして心臓発作で急死します。日本にも戦後3度来日。
 
 このジャケット写真というのが突っ込みどころ満載。なにしろ、旧東芝EMIときたら、晩年のすっかりオジサンになったフランソワの写真しか使っていないから、やまねこの中ではフランソワといえば、
「フランソワ?ああ~、酔っぱらったカリオストロ伯爵↓みたいなオジサンね」
というイメージだったのです。なので、開封した第一声が
「誰このヒト?」
やまねこは天才もイケメンも好きですが、イケメンで才能ある男はもっと好き(爆)。
以下のごとき、あまりの劇的ビフォーアフターっぷりに、EMIは若い頃のイケメン写真を使って、コンサートの聴衆に詐欺だ!と詰められるのを恐れたんでしょーか?
 
 
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(使用前)
 
 
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(使用後)
 
 
で、肝心の演奏ですが、ひとことでいえば「ハマる人はいっぺんで病みつきになるけど、ダメな人は最初からもーダメ」と、好みが両極端に分かれると思います。
 驚異的な記憶力と絶対音感の持ち主であったフランソワは、ショパンドビュッシーのような難易度の高い曲でも、数回演奏を聴いただけで頭に叩き込んで弾いたそといわれています。ひとたびインプットした曲は、その鋭い詩的直観力によって、譜面を無視しているのかとすら思えるようなアコーギグ、独特の揺らぐテンポで、ときに神がかり的な演奏として再構築してしまう。フランソワにとっては、ピアノは詩を紡ぎだすペンなのでしょう。
 
 
 
 フランソワの感性がもっとも発揮された(といっていい)のがショパン。EMIの36枚組中14枚までがショパンの録音というほどだから、フランソワのショパンに対する並々ならぬ思いの深さがうかがわれます。
 この「バラード第1番」は、「通常」10分程度で演奏される曲ですが、フランソワはなんと7分42秒で弾ききっています。ミスタッチをものともしない、抑えきれない情熱と抒情が火花となってほとばしるような熱演。聴いているこちらまで、日ごろ心の奥にしまいこんでいた感情を激しく揺さぶられるような演奏で、半世紀以上前の録音とはとても思えません。
 
 
 
 
 こちらは同じショパンノクターン第2番」
まさに言葉を超えた詩ともいうべき演奏。全盛期のフランソワの録音のほとんどは一回のテイクだったといいます。
 こういう突出した感性と才能の持ち主は、やはり長くこの世にとどまっていられないんじゃないかと思えてきます。フランソワは40代を過ぎた頃からアルコール依存症で演奏に陰りがみられるようになり、wikipediaでも「3回の来日歴があるが、来日するたびに酔漢の風貌へ変わっていったと言われる」とあるように、かつての美貌も次第に衰えていき・・・そして46歳での、あまりにも早すぎた死。
その壮絶な姿は、まさに「燃え尽きたスカルボ」といえるものでした。
 
(※スカルボ・・・フランソワが得意としたラヴェルの超絶技巧曲「夜のガスパール」最終楽章の表題。スカルボとは自由自在に飛び回る小悪魔のことで、同タイトルの評伝がフランソワの死後出版されている)
 
 それでも実質20数年間の演奏活動で、(EMIだけで)これだけの録音を残したのはやはり驚異的な活動量といえるし、数枚聴いた限りでは録音自体もなかなかよい!と思います。フランソワ自作の演奏や、意外なところではヒンデミットも録音されていて、記録としても価値あるコレクションといえるでしょう。
 
 
・・・って、全部聴き終わるのにどれだけかかるんだろうな~。。